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コラム

大家さんは遺言で借金も相続させることはできるか?

2020年10月23日生前対策
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大家さんは、遺言で、アパートとセットでアパートローン(借金)も後継者に相続させることはできるか?言い換えると、大家さんは、遺言で、プラスの財産だけでなく、マイナスの財産(負債、債務、借金)も特定の相続人に相続させることはできるのでしょうか?

 1 この記事を読むと分かること 

①遺言でアパートを相続させるときにはアパートローンもセットで相続させるように記載する必要性。

②アパートローンなどの借金の相続には、遺言があっても、原則として、法定相続人全員の関与が必要であること。

③遺言により全財産を相続させる(相続分の指定)とした場合、債権者の同意を条件として、受遺者である相続人が遺言に基づきアパートの所有権とローンを相続する(他の相続人の関与が不要)。この場合、アパートの所有権移転登記(名義変更)とローンを担保する抵当権の債務者の相続による変更登記を行う。

④遺言により、アパートを個別に、ローンとセットで相続させる(遺産分割方法の指定)とした場合、債権者の同意を条件として、受遺者である相続人が遺言に基づきローンを相続できるかについては判例がない。したがって、この場合に、アパートの所有権移転登記(名義変更)とともに遺言に基づく抵当権の債務者の相続による変更登記が可能か否かについては、司法書士が、個別に銀行、法務局と協議する必要がある。

 2 大家さんにとって遺言書は不可欠 

大家さんにとってのアパート経営は、税務上の不動産所得を生み出し、生計の一助とする一種の経営活動です。つまり、毎年、賃料収入から、ローンの返済、固定資産税・管理手数料等の経費の支払いをし、余った収益に対して税金を納める必要があります。

このことを相続という視点から換言すると、アパートの所有権とアパートローンの承継はセットで行うことが不可欠という、一見すると当たり前であるかのような前提が導かれます。

この当たり前を実現するためには、遺言でアパートを相続させる後継者に、ローンもセットで相続させる旨を記載しておく必要があります。

 3 アパートの所有権の相続とアパートローンの承継は自動的には連動しない 

アパートの所有権とアパートローンの承継はセットで行われるべきではありますが、、、この部分は自動的には、セットで手続できません。

つまり、遺言でプラスの財産の行方はコントロールできますが、アパートローンなどのマイナスの財産(負債、債務、借金など)は、相手(銀行などの債権者)がいることなので、遺言で完全にコントロールすることはできないのです。

第一の結論として、アパートローンは遺言の記載に関係なく、一旦は法定相続人全員に引き継がれ、銀行了解の上で、アパートの所有権を相続した相続人が、他の相続人からローンを免責的に引き受けるという手続きが必要であるのが原則です。

【補足】原則的なアパートローンの相続手続き
①遺言に基づきアパートの所有権移転登記(名義変更)をする。
②相続人全員をアパートローンの債務者とする(根)抵当権変更登記をする。
③根抵当権の場合は6か月以内であれば指定債務者の合意の登記をする。
④アパートを引き継ぐ相続人が他の相続人からアパートローンを免責的に引き受ける契約を銀行了解のもとに締結し、(根)抵当権の変更登記をする。
→抵当権であれば、免責的債務引受による債務者の変更登記
→根抵当権であれば、債権の範囲と債務者の変更登記

 4 銀行が認めれば遺言に基づき借金も相続させられる 

せっかく、遺言で、後継者が、将来の相続の際に他の相続人の同意を要することなく、円滑に相続手続き進められるように対策をしたのに、ローンの引継ぎには他の相続人の協力が必要になったのでは、遺言書を作成した意味が半減してしまう。

こんな風に思う方も多いのではないのでしょうか。

しかし、平成21年3月24日にこんな最高裁の判例が出ました。

「相続人のうちの1人に対して財産全部を相続させる旨の遺言により相続分の全部が当該相続人に指定された場合,遺言の趣旨等から相続債務については当該相続人にすべてを相続させる意思のないことが明らかであるなどの特段の事情のない限り,当該相続人に相続債務もすべて相続させる旨の意思が表示されたものと解すべきであり,これにより,相続人間においては,当該相続人が指定相続分の割合に応じて相続債務をすべて承継することになると解するのが相当である。もっとも,上記遺言による相続債務についての相続分の指定は,相続債務の債権者(以下「相続債権者」という。)の関与なくされたものであるから,相続債権者に対してはその効力が及ばないものと解するのが相当であり,各相続人は,相続債権者から法定相続分に従った相続債務の履行を求められたときには,これに応じなければならず,指定相続分に応じて相続債務を承継したことを主張することはできないが,相続債権者の方から相続債務についての相続分の指定の効力を承認し,各相続人に対し,指定相続分に応じた相続債務の履行を請求することは妨げられないというべきである。」(→引用元

つまり、第二の結論として、後継ぎに、ローンを含めた全財産を相続させるという遺言がある場合(相続分の指定がある場合)において、後継ぎが当該遺言を承認している場合には、相続人内部では、後継ぎがローンを引き継ぐことが確定し、更に、銀行などの債権者の同意があれば、債権者に対しても遺言によるローンの引継ぎを主張できるということになります。

【補足】遺言+債権者の同意に基づくアパートローンの相続手続き
①遺言に基づきアパートの所有権移転登記(名義変更)をする。
②遺言に基づき後継ぎのみをアパートローンの債務者とする(根)抵当権変更登記をする。
③根抵当権の場合は6か月以内であれば指定債務者の合意の登記をする。
④根抵当権の場合は被相続人の相続債務のうち変更前根抵当権の被担保債権の範囲に属するものにかかる債権を債権の範囲に追加する変更登記をする。

 5 「全財産」ではなく、アパートの所有権とローンを「個別に」相続させるとした遺言の場合は注意が必要 

前記平成21年の判例は、相続分の指定に関する債務の相続の判例であって、遺産分割方法の指定による債務の相続については判断していないと言われます。

言い換えると、「全財産を相続させる」という遺言(相続分の指定、相続人ごとに〇〇%相続させるというもの)について判断しているのであって、「ある相続人に個別のアパートとローンを相続させ、他の相続人に他の不動産を相続させる」という遺言(遺産分割方法の指定、個別の財産ごとに相続人を指定するもの)について判断しているのではないということです。

したがって、第三の結論として、遺産分割方法の指定となる遺言書の場合、必ずしも遺言により特定の相続人のみを債務者とする登記ができない可能性があることに留意ください。

つまりこの場合、遺言書に基づく後継者による単独の手続ができず、他の相続人の協力が必要となる懸念があるということです。

 6 まとめ 

①遺言でアパートを相続させるときにはアパートローンもセットで相続させるように記載しておきましょう。

②アパートローンなどの借金の相続には、遺言があっても、原則として、法定相続人全員の関与が必要であることを認識しておきましょう。

③遺言により全財産を相続させる(相続分の指定)とした場合、債権者の同意を条件として、他の相続人の関与なく、遺言に基づきアパートの所有権とローンを相続することができます。

④遺言により、アパートを個別に、ローンとセットで相続させる(遺産分割方法の指定)とした場合は、債権者の同意を条件として、他の相続人の関与なく、遺言に基づきアパートの所有権とローンを相続することができるかについては判例がありません。したがって、この場合に、アパートの所有権移転登記(名義変更)とともに遺言に基づく抵当権の債務者の相続による変更登記が可能か否かについては、司法書士が、個別に銀行、法務局と協議する必要があります。

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