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コラム

共有地を子に信託して将来の売却に備える

2020年11月21日生前対策
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70代の兄弟で2分の1ずつで共有している200坪(宅地、660㎡、路線価4620万円、固評3300万円)の土地を将来的に売却したい。共有地には80代の独居親族が、数十年来、未登記の住宅に居住しており、その親族が健在な間は、そのまま住まわせて、その親族が施設に入所したり、相続が発生した際には売却したい。事前に何か対策する必要はあるのか?

1 共有のままで大丈夫か?~高齢化に伴う認知症のリスク

事例のケースでは、兄弟と独居親族との間で使用貸借契約が成立しているものと考えられます。兄弟の意向は、独居親族が健在な内は、このまま住まわせて、独居親族が、施設に引っ越したり、相続が発生したりした場合に、共有地を売却したいというものです。

将来の売却に際しての課題は大きく2つあります。

1点目は独居親族の住宅処分の課題です。この点は独居親族の相続問題、あるいは使用貸借契約上の問題です。高齢な独居親族にあまり負担はかけたくないですが、できれば住宅処分・原状回復について覚書を交わしておくと将来の相続等の際にスムースに話が進みやすいでしょう。

2点目は70代の兄弟の認知症リスクです。独居親族に相続等が発生するのは何年先になるのか正確に予測することはできません。その間に、兄弟が認知症等により判断能力が低下すると、土地を売却することはできなくなるからです。

2 何も対策せずに認知症になると法定後見一択となる

将来売りたい土地があるのに、何も対策しないまま名義人である兄弟の一人が認知症になってしまうと、残念ながら土地を売ることはできなくなります。

認知症により判断能力が低下した方が、土地の売買契約を有効に締結することはできないからです。

認知症になった場合にとれる対策は法定後見のみです。

この場合、認知症になった兄弟のために家庭裁判所で成年後見人を選任してもらいます。

法定後見の場合は、多くの場合、司法書士や弁護士が成年後見人に選ばれ、認知症となった兄弟本人の財産を「現状維持する管理」がなされます。

つまり、成年後見人は、認知症により本人の意思が確認できない以上、勝手に本人の意思を推測して、あるいは経済合理的な行為として、土地を売却するということはできなくなるのです。

そこで、今回のように、高齢な兄弟に、将来売却を予定している土地がある場合には、事前に対策をしておくことが不可欠なのです。

以下に、考えられる対策を5つ検討します。

3 対策1:分筆→将来の売却の際にマイナスポイントとなり得る

共有地であれば、二つに分けて(分筆して)それぞれの単独所有としておくことが考えられます。

しかし、買い手が決まっていない段階で分筆してしまうことは、将来の売却先が限定されることを意味します。

200坪の土地をどう活用するかは、買い手の事情により様々です。アパート建築目的であれば、まるごと買うことになるでしょう。

土地分譲目的の業者であれば、まるごと買い取ったうえで、3区画くらいに分筆して分譲することになるでしょう。

したがって、買い手が決まっていない現段階で分筆することは避けた方が望ましいといえます。

4 対策2:遺言→相続対策にはなるが認知症対策にはならない

遺言は、自分が死亡したときに備えて、誰に、どの財産を、相続又は遺贈するかを決めておくことです。

遺言は、相続トラブルを防止する相続対策として有効ですが、相続発生前の認知症対策には使えません。

認知症対策として有効になり得るのは、次項以下の、生前贈与、任意後見、家族信託の3つです。

5 対策3:生前贈与→分かり易い方法だが流通税が高い

認知症対策の1つ目は生前贈与です。高齢な兄弟名義の土地をそれぞれの子に生前贈与するのです。

生前贈与してしまえば、土地の共有者は兄弟それぞれの子ですから、子の判断により土地を売却でき、兄弟の認知症のリスクがなくなります。将来土地を売却できたときは、子の所得となり、利益があれば確定申告・納税することとなります。

一方で、生前贈与のデメリットは、流通税がかかるということです。

高額な土地の贈与する場合の贈与税については、相続時精算課税制度を利用して、当面の贈与税は土地評価2500万円までの贈与については回避できます。

将来の相続の際に、贈与した土地持分の評価額を相続財産に加算したうえで、相続税の基礎控除額を超える場合にのみ、相続税として納税する制度です。また、いったん、相続時精算課税制度を選択すると、同じ親子間については年間110万円の暦年贈与の非課税枠を使えなくなります。

相続時精算課税制度により贈与税を回避できたとしても、意外にかかるのが、流通税と言われる不動産取得税と登録免許税です。

固定資産税評価額3300万円の土地贈与に対する不動産取得税、登録免許税は次の通りです。

不動産取得税=33,000,000÷2×0.03=495,000円
登録免許税=33,000,000×0.02=660,000円

合計1,155,000円(固定資産税評価額の3.5%相当)の流通税がかかるということになります。

ここで対策ごとの流通税の比較表を示します。

○生前贈与   :3.5%(宅地の場合)→事例1,155,000円
○任意後見+相続:0%+0.4%=0.4% →事例132,000円
○家族信託+相続:0.4%+0.4%=0.8%→事例264,000円

任意後見や家族信託に比べ、大幅に生前贈与の税率が高いことが分かります。

反対に、生前贈与は、任意後見や家族信託に比べて、非常にシンプルで分かり易いため、「複雑にしたくない」という方については、上記費用等をご理解の上で生前贈与を実行されるとよいでしょう。

お金はかけてでも生前にスッキリしておきたい、これが生前贈与を選択する理由です。

6 対策4:任意後見→法定後見に比べ柔軟な財産管理が可能

任意後見は、あらかじめ、子などを後見人予定者に決めておき、自分に判断能力がなくなった時点で、後見人予定者が家庭裁判所に申し立てることによって、子による後見制度がスタートする制度です。

任意後見の特徴は次の通りです。
・法定後見と異なり子などを後見人に指定できる
・あらかじめ財産管理の方法を定めることにより法定後見よりは柔軟な財産管理が可能
・判断能力喪失から後見開始までの間にタイムラグが生じる
・そもそも判断能力が低下しても後見開始を申し立てない事例が多い
・家庭裁判所により選任される後見監督人による管理下に置かれる
・後見人である子には財産管理権だけでなく介護サービス契約などの身上監護権も付与される

家族信託に比べて、よく言えば安全、悪く言えば機動性と柔軟性に欠ける傾向があると言えるのが任意後見です。

7 対策5:家族信託→家族間の信頼関係をもとに柔軟な財産管理が可能

家族信託は、従前、家族間の信頼関係のもと事実上管理されてきた高齢者の財産管理を、契約のレベルまで引き上げ、土地などの高額資産も本人の希望に沿った柔軟な管理処分を認めることを可能とする制度といえるでしょう。

家庭裁判所の監督は及ばず、家族信託契約に定められた、信託の目的と受託者の権限に従って、財産を柔軟に管理処分し、最終的には相続人等に財産を承継させます。

家族信託は、本人が財産の委託者として、子を受託者として、土地などの財産を託し、本人が健在な内は本人を受益者として、土地の売却代金等の利益を享受させ(自益信託)、本人に相続が発生するなど家族信託契約に定めた信託の終了事由が発生したときは、子などに財産を承継させる制度です。

このように、家族信託は、財産の柔軟な管理と子世代への承継を一貫して実現できる制度です。

親から子に、共有地と固定資産税などの支払いに備えた一定の金銭を信託財産として託します。

託された財産は、親の財産でもなく、子の財産でもない「信託財産」であり、名義は受託者である子、信託財産から得られる収益は受益者である親に帰属するという仕組みになります。

家族信託において重要なことは次の5点です。

①本人がどんな財産の管理と承継を望むのかという「信託目的
②信託財産を管理していく「受託者」の人選と家族信託に対する理解度・実務能力
③信託監督人・受益代理人等の「受託者を監督・支援する体制
④信託口座を開設する「金融機関との調整
⑤「信託終了時の財産の帰属

それでは次項では、事例のケースにおける家族信託契約で定めることを解説します。

8 家族信託契約で定めることの概要例

共有地の名義人である兄弟はAとE、Aの子は長男B二男C三男D、Eの子は長女F二女G、Bを受託者として信託契約を締結した事例。

委託者A、委託者E、受託者Bは、以下の通り信託契約を締結した。

第○条(信託目的)
本信託は、受託者が委託者の財産を管理及び処分することにより、委託者の財産管理の負担を軽減するとともに、委託者の判断能力の低下にかかわらず適宜の時期における財産の売却処分を可能とし、もって、委託者及びその推定相続人の円滑な財産の承継を実現することを目的とする。

第○条(信託契約)
委託者は、本契約締結日に、前条の信託目的に基づき、別紙信託財産目録記載の信託財産を受託者に信託し、受託者はこれを引き受けた。

第○条(信託財産)
1 本契約締結時における信託財産は、次の各号の通りとする。
①本契約書末尾記載の不動産
②金300万円
2 前項のほか、信託財産に属する財産の管理、処分、滅失、損傷その他の事由により受託者が得た財産は、信託財産とする。
3 委託者は、本信託の目的を達成するために、金銭の追加信託をすることができる。
4 信託不動産の共有者全員持分の全部は、本契約締結と同時に、委託者から受託者に移転する。
5 委託者及び受託者は、本契約後直ちに、信託不動産について本信託を原因とする共有者全員持分全部移転登記及び信託の登記を同時申請する。
6 前項の登記費用は、受託者が信託財産から支出する。
7 受託者は、信託期間中及び信託終了後、信託不動産の瑕疵及び瑕疵により生じた損害について責任を負わない。

第○条(委託者)
1 本信託の委託者は、次のとおりである。
①A(年月日生、住所)
②E(年月日生、住所)
2 委託者が死亡した場合、委託者の地位は消滅し相続人に承継されない。

第○条(受託者)
1 本信託の受託者は、次のとおりである。
B(年月日生、住所)

第○条(受託者の信託事務)
1 受託者は、次の各号の信託事務を行う。
①信託不動産を、管理、処分等すること。
②前号の管理、処分等により受領した金銭を管理し、受益者の生活費等に充当するために支出すること。
③その他、信託目的を達成するために必要な事務を行うこと。

第○条(受益者)
本信託の受益者は、次の通りとし、A及びEの受益割合は均等とする。
①A(年月日生、住所)
②E(年月日生、住所)

第○条(受益者代理人)
本信託の受益者代理人として、次の者を指定する。
H(職業 司法書士、年月日生、住所)

第○条(信託の終了事由)
本信託は、信託不動産の処分が完了し、かつA及びEの死亡により終了する。

第○条(帰属権利者又は残余財産受益者)

9 家族信託の計画・実行・終了までの流れ

家族信託の計画・実行・終了までの流れは以下の通りです。

①専門家による起案
②家族との調整
③金融機関との調整
④公証役場との調整
⑤公証役場で家族信託契約締結
⑥金融機関で口座開設
⑦法務局に登記申請
⑧受託者による信託財産の管理
⑨受託者による信託財産の売却処分
⑩信託の終了に伴う残余財産の帰属

10 まとめ

家族信託を起案する専門家には、①②の段階で、将来起こり得る様々なケース(死亡の先後等)を想定して、トラブルのない契約書を仕上げることが求められます。

受託者は、信託財産を自分の財産と分別管理して、受益者のために厳格に管理する必要があります。

家族信託は、財産を管理するだけでなく、財産を承継する機能も有するため、相続トラブルを避けるため、対象財産以外については、公正証書遺言等により、生前対策しておく必要があります。

 

ご自身あるいはご両親の高齢化に伴う財産の管理と承継についてお悩みの方は、事前のご予約のうえ、ご相談にお越しくださいませ。

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