嫁に出た娘は遺産の法定相続分を主張すべきか?
- 2020年8月24日相続
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昨年父が亡くなり、実家の母と弟で相続手続きを進めています。遺産は実家の土地(評価額1500万円)と預貯金1000万円ほど。おそらく生命保険金もあると思います。父の生前、私は、夫に負担をかけつつも、父の介護をし、それなりに頑張ってきたと思います。なのに「嫁に出した子だから」といって取り分のない遺産分割協議書に実印を押印するように言われています。私は遺産の法定相続分を主張しても良いのでしょうか?
1 結論
法定相続分までは主張せず、預貯金のいくらかの分配を主張するのが良いと考えます。
2 実家側の言い分の背景【家督相続の名残・両親の世話】
母や弟の言い分は、家を出た人間、嫁に出た人は、実家の相続に口出しすべきではないということです。
主な根拠は2点あります。
①家督相続の名残
戦前までは、家督相続制度があり、家を継ぐ長男などの家督相続人が全財産を相続していました。
戦後の1947年に民法が改正され、子は平等な法定相続分を持つことになりました。
しかし、その後も数十年間、家督相続制度の名残はあり、ある意味、家督相続制度の名残が、長男が相続するのが常識という考え方として、相続トラブルの増加を防いでいたともいえます。
②両親と生活を共にし食事や身の回りの世話をしてきたという既成事実
実家を継いだ長男夫婦が両親と生活を共にし食事や身の回りの世話をしてきたという既成事実も、弟夫婦にとって実家の財産はすべて相続して当たり前という言い分に繋がります。
3 実家側の言い分の問題点
しかし、お分かりのように実家側の言い分には問題があります。
①家督相続の名残自体が、家督相続廃止から70年以上経過し、そろそろ時代的にも通用しなくなっている。
②実家の仕事ともいえる介護を姉に任せておきながら、遺産相続に関してのみ「家を出た人」扱いするのは身勝手な言い分であること。
③そもそも法律的に争えば姉に法定相続分相当分の主張が認められてしまうこと。
改めて①②③を見てみると、言い分としては姉の方に分がありそうです。
ただし、法律論をかざして、家族関係を険悪にするのも良くありません。
重要なことは、感情的になる気持ちを抑えて、穏便かつ現実的な解決策を、話し合いにより導き出すことです。
4 現実的な解決
ここでお互いの立場を分析すると次の通りとなります。
【弟】
○実家を継いで義理の妹も両親と数十年間生活を共にしてくれた。
○介護は姉に任せがちではあったけど、常識的な範囲での両親の身の回りの世話はしてくれた。
○実家に財産的価値があるといっても自宅であるから売ってお金に出来るわけではない。【姉】
○お金目当てではないが、実家を出た人間という切り捨てたような表現で、遺産の取り分がないと決めつけるのは納得できない。
○弟夫婦は親の面倒を見てきたとはいえ、同居のよしみで、それなりの経済的援助を受けてきたはず。
○介護はお金目当てでしてきたわけではないが、何も報われないのは、負担をかけた夫にも申し訳なく思う。
○実家を売れとは言わないが、せめて余った預貯金のいくらかは、母の老後の生活のことも検討のうえ少し分けてほしい。このようにみてくると、今回の現実的な解決策は、実家は弟が相続し、預貯金について介護をねぎらう気持ちで、姉にいくらか分配するのが、円満相続のポイントではないでしょうか。
5 問題は2次相続(母の相続)
ここまで見てきましたが、本当の問題は、母が亡くなった時の相続(2次相続)です。
1次相続のときは、片親が健在なので、親を立てて子供たちが喧嘩になることは少ないです。
問題の先送りのため、「とりあえず今回は母が全部相続しよう」という遺産分割協議がされることもあります。
しかし、両親ともにいなくなる2次相続のときは、親への遠慮がなくなり、今までくすぶっていた不満が爆発して泥沼の相続トラブルに発展することも珍しくありません。
このような場合の遺言書の必要性については別の記事で解説させて頂きます。