〈2020 年解決事例〉
(※プライバシーへの配慮から編集を施しております)
相談内容…明治時代の抵当権、抹消できるか?
自宅に隣接している土地に娘夫婦の住宅の計画を進めていたところ、建築予定の土地になんと明治時代の抵当権が残っていることが判明しました。
抵当権設定 | 明治35年5月1日 第2555号 | 【原因】明治35年5月1日設定 【債権額】金30円 【利息】金1円につき月8厘 【抵当権者】大村一郎 |
明治時代の古い抵当権を抹消することはできないでしょうか?
実際の解決方法
1,休眠登記の抹消メニューの検討
今回のような抵当権に限らず、古くて休眠・形骸化した登記というものは少なからず存在します。
休眠登記は、過去に弁済等により消滅している可能性が高い権利、もしくは、5年、10年、20年の時効期間が経過しているような権利を根拠とするものですから、形骸化した存在価値のない登記といえます。
休眠登記は、社会経済上もう少し簡単に抹消できるようになるべきと考えられますが、現状は少し特殊な手続きが必要となり、手掛ける司法書士は比較的少数です。
休眠登記が判明するタイミングは次の通りです。
- 相続登記で司法書士が指摘
- 住宅の建て替えで工務店・銀行が指摘
- 土地の売買で不動産業者が指摘
休眠登記が残ったままの土地は、売却、住宅ローン・アパートローンなどの利用が困難となるため、気づいた時点で抹消しておくのが賢明です。
2, 休眠登記の種類と使用頻度の高い抹消方法【★は難易度の目安】
Ⓐ個人(相続人)名義の休眠抵当権・根抵当権
- 消滅時効+合意による抹消登記【★】本件該当
- 消滅時効+裁判による抹消登記【★★】本件該当
Ⓑ個人(相続人)名義の休眠仮登記
- 消滅時効+合意による抹消登記【★】
- 消滅時効+裁判による抹消登記【★★】
Ⓒ個人(相続人)名義の休眠所有権
- 取得時効+合意による所有権移転登記【★★】
- 取得時効+裁判による所有権移転登記【★★★】
Ⓓ個人(行方不明)名義の休眠抵当権・根抵当権
- 不在者財産管理人選任+合意による抹消登記【★★】本件該当
- 供託による抹消登記【★】本件該当
Ⓔ個人(行方不明)名義の休眠仮登記
- 不在者財産管理人選任+合意による抹消登記【★★】
Ⓕ個人(行方不明)名義の休眠所有権
- 不在者財産管理人選任+合意による所有権移転登記【★★】
Ⓖ清算結了・破産した法人名義の休眠抵当権・根抵当権
- 清算人選任+合意による抹消登記【★】
Ⓗ清算結了・破産した法人名義の休眠仮登記
- 清算人選任+合意による抹消登記【★】
Ⓘ清算結了・破産した法人名義の休眠所有権
- 清算人選任+合意による所有権移転登記【★】
本事例で利用できる可能性のあるものは、オレンジのタグを付けたの4つの方法です。
- 物価の低い時代の抵当権のため供託金を少額に抑えることができること
- 登記上の抵当権者宛の弁済催告書が不到達になる可能性が高いと予想されること
上記二点の理由から、今回は、最も簡単な、ⒹB.供託による休眠抵当権抹消登記で進めることにします。
3,供託による休眠抵当権抹消登記の4条件
【供託による休眠抵当権抹消の条件】
- 抹消する登記が抵当権、先取特権、質権
- 本件は抵当権であり問題なし。実務上よく扱うのは、抵当権と確定根抵当権です。
- 抹消する登記の名義人が行方不明
- 登記名義人の住所宛に配達証明郵便で弁済受領催告書を郵送し、宛所不明で返却されればOK。
宛所不明で返送されず、相続人等が受け取った場合は、供託による抹消登記はできません。相続人等の協力を得るか、消滅時効を主張して民事訴訟をすることとなります。
- 登記名義人の住所宛に配達証明郵便で弁済受領催告書を郵送し、宛所不明で返却されればOK。
- 債権の弁済期から20年経過
- 20年以内の抵当権は、そもそも供託金額が高額となるため、供託による抹消登記を選択するケースは稀でしょう。
相続人等の協力を得るか、消滅時効を主張して民事訴訟をすることとなります。
- 20年以内の抵当権は、そもそも供託金額が高額となるため、供託による抹消登記を選択するケースは稀でしょう。
- 債権額の元金+利息+現在までの損害金を供託
- 供託金額の計算がポイントです。
以下、順番に解説いたします。
4,抵当権者の行方不明証明書の獲得
まずは、登記事項証明書、閉鎖謄本を取得して登記記録を確認します。
確認するのは、次の6点です。
- 抵当権者の住所氏名 ○○
- 原因日 明治35年5月2日
- 弁済期 明治35年12月31日
- 債権額 金30円
- 利息 1円につき月8厘
- 損害金 記載なし
次に、登記記録上の抵当権者の住所氏名宛に、弁済受領催告書を配達証明郵便で発送し、宛所不明により返却されます。
宛所不明により返送された抵当権者宛の封筒が、抵当権者の行方不明証明書となります。
5,供託金額の計算
今回の債権額は元金30円、利息 1円につき月8厘、損害金の定めなしです。
1厘=0.001円(1000分の1円)
損害金の定めがないときは利息と同率とします
- 利息の計算:明治35年5月2日~同年12月31日
- 30円×0.008×(7カ月+2日÷31日)=1.69円
- 損害金の計算:明治36年1月1日~令和2年2月20日
- 30円×0.008×(117年×12カ月+1カ月+20日÷29日)=337.36円
元金(30円)+利息(1.69円)+損害金(337.36円)=369円→供託金額
6,抵当権者の住所地の管轄法務局に供託
令和2年2月20日を供託日に設定し、事前に法務局に供託書をFAXし、金額の認識に相違ないか確認を取っておきます。
その後、事前に設定した令和2年2月20日にオンラインで供託。
供託金をネットバンキングで納付した上で、別途、申請書類を郵送します。
数日後、オンラインで供託書正本が発行されます。
7,不動産所在地の管轄法務局に抵当権抹消登記
供託書正本を添付して抵当権抹消登記を申請します。2週間ほどで登記が完了します。
以上で、手続完了です。
概算費用(1物件)
項目 | 報酬 | 実費 |
---|---|---|
事前登記情報×1 | 331 | |
閉鎖謄本×2 | 5,000 | 1,200 |
弁済受領催告書作成 配達証明郵便発送 | 5,000 | |
弁済供託 | 70,000 | 366 |
抵当権抹消登記 | 15,000 | 1,000 |
事後登記情報 | 331 | |
小計 | 95,000 | 3,231 |
消費税 | 9,500 | |
合計請求額 | 107,731 |
まとめ
今回は休眠登記の抹消の中で、最も簡単な、「供託による休眠抵当権の単独抹消登記」の事例でした。
当事務所では、今回の方法以外を使用した「休眠登記の抹消」解決実績が複数あります。
時効等の要件を満たす限りは対応可能ですので、まずは一度ご相談ください。
当事務所は、
①円満相続については効率よい手続
②疎遠・複雑な相続については出来る限りの対処療法
③資産の凍結を防ぎたい・相続トラブルを予防したいご家族には家族信託・遺言・生前贈与などの生前対策
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