〈2020 年解決事例〉
(※プライバシーへの配慮から編集を施しております)
相談内容…父の相続が終わる前に母も他界、どうなるのか?
父を亡くされた長男様からの相続手続のご依頼です。初回面談にご来所されたのは長男様お一人です。
父の遺産は、不動産 3000 万円と預貯金 1000 万円。相続人は、母と長男のお二人です。
初回面談で一覧表をお渡しし、お母様と話し合っていただいた結果、母が預金 1000 万円を、長男が不動産 3000 万円を取得することになりました。
長男様はご自身で戸籍を収集しており、父の出身の東北地方の戸籍が取得できるのにあと1週間ほどかかるとのことでした。
戸籍が集まり次第、遺産分割協議書をお渡しして、お母様と長男様の押印を頂き、相続登記をする予定でした。ところが、2週間後、長男様からお母様の訃報が届きました。
急な訃報で驚きましたが、長男様にご来所頂き、今後の相続手続について改めて面談させて頂きました。
母の遺産は、父から相続する予定だった 1000 万円と母自身の財産である預金 2000 万円です。父と母、二人分の相続手続をどのように進めればよいのでしょうか?
父母の数次相続
数次相続と相続手続比較表
図からも分かるように、母が他界する前に「父の財産について母と遺産分割協議が口頭で終わっているかどうか」で、その後の手続の煩雑さや納める税金が異なってきます。
今回は左側に該当するので、相続登記は1回で済み、相続税申告も不要という取り扱いとなります。
母の二次相続の際には子であるご相談者様は
「母が父から相続している預貯金 1000 万円+母の財産である 2000 万円=合計 3000 万円の預貯金」
を相続します。
遺産分割協議が終わっていなかった場合、父の財産については法定相続通り妻である母と子である相談者様が二分の一ずつ相続することになるため、父の財産がプラスされた分だけ母の財産が増え、二次相続の際に合計額が相続税の基礎控除額3,600万円を超えるため、相続税も発生します。
注意しなければならないのは、税務署からみて、「本当は生前に母と父の相続について協議していないのに協議済みとでっち上げた」と判断されると、否認され相続税の申告納税を要求される可能性があることです。
一方、相続登記は法務局管轄ですが、税務署のような実質判断は現状されていないようです。次に、以上のような実務の扱いの根拠となる先例を掲載させて頂きます。
※赤字は当職が書き加えた注意書きです。
遺産分割の協議後に他の相続人が死亡して当該協議の証明者が一人となった場合の相続による所有権の移転の登記の可否について標記について、別紙甲号のとおり大阪法務局民事行政部長から当職宛てに照会があり、 別紙乙号のとおり回答しましたので、この旨貴管下登記官に周知方お取り計らい願います。
(別紙甲号)
所有権の登記名義人Aが死亡し、Aの法定相続人がB及びCのみである場合において、Aの遺産の分割の協議がされないままBが死亡し、Bの法定相続人がCのみであるときは、CはAの遺産の分割をする余地はない【Cは一人で父相続人の立場と父相続人母の相続人という対場を併有するが、 物理的に一人である以上、遺産分割「協議」 をする余地はないということ】ことから、CがA及びBの死後にAの遺産である不動産の共有持分を直接全て相続し、取得したことを内容とするCが作成した書面は、登記原因証明情報としての適格性を欠くものとされています(東京高等裁判所平成26年9月30日判決及び東京地方裁判所平成26年3月13日判決参照)。
これに対して、上記の場合において、BとCの間でCが単独でAの遺産を取得する旨のAの遺産の分割の協議が行われた後にBが死亡したときは、遺産の分割の協議は要式行為ではないことから、Bの生前にBとCの間で遺産分割協議書が作成されていなくとも当該協議は有効であり、また、Cは当該協議の内容を証明することができる唯一の相続人であるから、当該協議の内容を明記してCがBの死後に作成した遺産分割協議証明書(別紙)は、登記原因証明情報としての適格性を有し、これがCの印鑑証明書とともに提供されたときは、相続による所有権の移転の登記の申請に係る登記をすることができると考えますが、当該遺産分割協議証明書については、登記権利者であるC一人による証明書であるから、相続を証する情報としての適格性を欠いているとの意見もあり、当該申請に係る登記の可否について、いささか疑義がありますので照会します。
(別紙)
遺産分割協議証明書
平成20年11月12日〇〇県○○市○○区○○町〇丁目〇番〇号Aの死亡によって開始した相続における共同相続人B及びCが平成23年5月10日に行った遺産分割協議の結果、〇〇県○○市○○区○○町〇丁目○番〇号Cが被相続人の遺産に属する後記物件を単独取得したことを証明する。
平成27年1月1日
〇〇県○○市○○区○○町〇丁目○番〇号
(Aの相続人兼Aの相続人Bの相続人)C(印)
不動産の表示(略)
(別紙乙号)
本年2月8日付け不登第21号をもって照会のありました標記の件については、貴見のとおり取り扱われて差し支えありません。
母の生前に口頭で父の遺産分割協議が成立していた場合の遺産分割協議証明書
母の生前に口頭で父の遺産分割協議が成立していたことが分かるように、次のように記載します。
遺産分割協議証明書抜粋
被相続人の死亡により開始した相続おける共同相続人妻○○及び長男○○が、令和2年7月○日に行った遺産分割協議の結果、以下のとおり遺産を分割し取得することに決定した。
第1条 妻○○は、次の預貯金債権を取得する。
第2条 長男○○は、次の不動産を取得する。
以上の協議が、令和2年7月○日に成立したことを証するため本書を作成し相続人兼相続人妻○○相続人が次に署名押印する。
父名義の不動産の相続登記
以上の通りの遺産分割協議証明書を添付し、父名義の不動産を長男に直接所有権移転する相続登記を申請します。相続登記完了後、次の書類を納品します。
父母名義の預金の相続手続き
長男様は相続証明書ファイルを持参して預金の解約手続きをします。
持ち物は次の通りです。
金融機関ごとに数日~4週間程で解約した預金が入金されます。
以上で手続完了です。
概算費用(父の遺産額4000万円/3物件)
項目 | 報酬 | 実績 |
---|---|---|
事前登記情報 | 993 | |
遺産分割協議証明書 | 45,000 | |
法定相続情報 | 10,000 | |
相続登記 | 65,000 | 108,000 |
事後登記情報 | 993 | |
小計 | 120,000 | 109,986 |
消費税 | 12,000 | |
合計請求額 | ¥241,986 |
まとめ
相続人に兄弟姉妹がいない場合は親の相続で揉める心配がない点は安心ですが、今回のように父母が相次ぎ亡くなるなどのケースもあるため、相続手続には注意も必要です。
- 父母の遺産の状況や健康状態に配慮しつつ、早めに遺言書・家族信託・生前贈与などの対策をしておく。
- 生前対策しないまま父母の片方の相続が発生した場合は、すみやかに遺産分割協議をして税務上の損をすることがないようにする。
当事務所は、
①円満相続については効率よい手続
②疎遠・複雑な相続については出来る限りの対処療法
③資産の凍結を防ぎたい・相続トラブルを予防したいご家族には家族信託・遺言・生前贈与などの生前対策
ご提案・ご提供することにより、皆様の安心・円満な相続と有効な資産の利活用にお役立ちすることを使命としております。
現在又は将来の相続でお悩みのあなたが、いま何をできるかをご提案させて頂きます。ご相談・ご依頼を心よりお待ち申し上げております。