相談内容…兄が相続した亡父の土地を母名義にやり直したい
〈2019 年解決事例〉
(※プライバシーへの配慮から編集を施しております)
平成22年に、父が他界し、母、兄、私、弟の4名で遺産分割協議をし、実家の隣に位置する市街化調整区域の農地を長男の兄が相続しました。
ところがその数年後に兄も他界してしまいました。私の姪に当たる兄の子は遠方に住んでおり、元は父の所有だったその土地を相続する意思はありません。
土地は道路にも面しており、住宅を建築するには丁度よいですが、市街化調整区域の農地ですので、親族以外は家を建てることができません。
私の息子は持ち家志向で、将来的にはマイホームを持ちたいと考えているため、もともとは父のものだったこの土地を私が相続しなおして、いずれは息子に譲りたいと思っています。


兄名義の相続登記をやり直すことはできないでしょうか?
実際の解決方法
1,相続のやり直しには 2 つの方法がある
過去にした相続登記をやり直したい。
そんな時には2つの方法があり、状況に応じて使い分けが必要です。
- 相続登記抹消+再度の相続登記
- 贈与登記(現在の名義人から贈与を受ける)
基本的には①の方がメリットが多いので、相続人全員の同意が得られる場合は①を選択します。
相続人全員の同意が得られない場合は、②を選択するしかありません。また、相続登記後に換地処分などがされているときも、②を選択するしかありません。
2つの方法の違いを、もう少し知りたい方は、次の比較表をご覧ください。
相続登記抹消 +再度の相続登記 | 贈与登記 | |
---|---|---|
相続人全員の同意 | 必要 | 不要 |
贈与税 | 原則課税 | 課税 |
所有権移転の農地法許可 | 不要 | 必要 |
不動産取得税 | 非課税 | 3% |
登録免許税 | 0.4%又は非課税 | 2 % |
分家住宅の条件 | △ | × |
2,行政書士に分家住宅の条件を確認する
最終的な目的が、相談者様のご子息の分家住宅建築だとすると、最初に、分家住宅の条件を確認しておく必要があります。
参考までに岐阜県の基準を引用させて頂きます。分家住宅の基準を満たすかの判断には専門性が要求されるため、必ず専門の行政書士にご相談ください。
岐阜県庁HP 開発許可の手引
開発許可の手引き - 岐阜県公式ホームページ(建築指導課)...こちらに掲載のあるPDFをご参照ください
「岐阜県開発審査会提案基準第2号「農家世帯等の分家に伴う住宅」の基準を改正しました。[PDFファイル/94KB]」
3,分家住宅のためには、相続登記抹消+再度の相続登記を選択する
上記岐阜県庁による『「農家世帯等の分家に伴う住宅」の基準』には市街化調整区域の農地に住宅を建築できるのは「直系血族」かつ「相続等により申請地の所有権等を取得することができる者」とあります。
よって、相談者様が現在は兄名義になっているご実家の土地を御子息の分家住宅用としたい場合は、土地の名義を「兄名義」から「母又は相談者様の名義」に変更する必要があります。
(兄名義から相談者様の御子息に直接相続しても住宅を建てることができないため)
そこで、一度完了している亡父の遺産分割協議を合意解除した上で、新たな遺産分割協議を行います
この遺産分割協議のやり直しに基づいて、相続登記を抹消して名義を亡父名義に戻すと同時に、亡父から母への相続登記をするのです。
4,相続登記抹消+再度の相続登記にかかる贈与税
相続登記抹消+再度の相続登記をするに際して注意すべきは贈与税です。
一度、遺産分割協議がなされて相続登記されたものを、後からやり直すとなると、税務上は贈与扱いとなります。
そのため、土地の贈与税評価額をザッと把握する必要があります。市街化調整区域の農地として、固定資産税評価額に国税庁の倍率をかけて概算の贈与税評価額を確認します。
今回は、固定資産税評価額2万円に対して、倍率30倍で、贈与税評価額の概算は、60万円です。
相続登記の抹消自体は、宅地化目的の贈与ではないので、宅地評価ではなく、通常の贈与税評価としての倍率評価を採用します。
他の贈与と合わせて年間110万円以内であれば非課税となります。
5,相続人全員の同意を取り付ける
相続登記抹消+再度の相続登記には、通常の相続と同様に相続人全員の同意が必要です。
亡父の現在の相続人は、母、姪、相談者、弟の4名ですから、相談者様に3名の同意を取り付けていただきます。
6,戸籍を取得する
通常の相続と同様に、亡父の出生から死亡までの連続全戸籍を取り寄せます。亡兄についても、出生から死亡までの連続全戸籍を取り寄せます。
相続人4名については、戸籍全部事項証明書と印鑑証明書を準備します。
7,遺産分割協議書等作成後、相続登記抹消登記+再度の相続登記
司法書士が作成した、遺産分割協議書と登記書類一式に相続人4名が署名・実印押印します。
相続人全員の署名、実印が集まった後、司法書士が相続登記抹消と再度の相続登記をして、兄名義の農地を母名義に変更します。
8,遺言公正証書
実家の土地の名義を兄から母へ変更できました。今回の土地は今後、お母様から相談者様、相談者様から子へ引き継がれる予定です。
亡兄の子である姪は、相談者様のご実家とは疎遠で、今回の土地を含め、母の他の遺産においても全く引き継ぐ意思がありません。
そこで、いづれ訪れる母の相続が滞りなく行えるように、母の遺言公正証書も作成しておきました。
概算費用(遺産額2万円/1物件)
項目 | 報酬 | 実費 |
---|---|---|
事前登記情報 | 662 | |
戸籍調査2,500円×3 | 7,500 | 2,250 |
相続関係説明図 | 10,000 | |
遺産分割協議書 | 5,000 | |
相続登記抹消登記 | 20,000 | 1,000 |
登記原因証明情報 | 30,000 | |
相続登記 | 36,000 | 0 |
事後登記事項証明書 | 500 | |
遺言公正証書 | 70,000 | 60,000 |
小計 | 178,500 | 64,412 |
消費税 | 17,850 | |
合計請求額 | ¥260,762 |
まとめ
今回のような分家住宅用の土地に限らず、過去にした相続登記をやり直したいという需要は少なからず存在します。
- 兄が実家を継ぐ予定で実家の土地を相続したが、兄は結婚後遠方に住宅を建てたため、実家の土地を管理できなくなった
- 長男がまとめて実家と田畑山林を相続したが、二女のところの孫夫婦がマイホーム用の土地を探している。
- 姉が相続した農地を、弟の私が譲り受けたい

相続した後に事情が変わることもある
相続登記抹消+再度の相続登記は、贈与と比べ比較表にもある通り次のようなメリットがあります。
過去にした相続登記でお悩みの方は、当事務所にご相談ください。
相続人全員の協力が得られれば、解決出来る可能性があります。

当事務所は、
①円満相続については効率よい手続
②疎遠・複雑な相続については出来る限りの対処療法
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