解決事例Solution Cases

【私道の共有者が行方不明】不在者財産管理人を選任し、売買した事例

【私道の共有者が行方不明】不在者財産管理人を選任し、売買した事例 その他

〈2020 年解決事例〉
(※プライバシーへの配慮から編集を施しております)

相談内容…私道の共有者が行方不明で工事できない

市道拡幅のため、土地家屋調査士の方が隣地所有者の調査をしたところ、自宅から市道に至る私道(しどう、わたくしどう)に、現在住んでいないCさんの名義があることが判明しました。

Aさん、Bさん、Cさんの土地の説明図

実は、Cさんの件はAさんが以前にも土地開発をした不動産業者や司法書士に相談したものの未解決のままとなっていた事案でした。Cさんの名義を何とか処理できないでしょうか?

実際の解決方法

1,周辺の登記情報を調査して過去の権利変動を把握する

Cさんが私道の共有者ということは、

  • Cさんはかつて隣接する宅地を所有していた
  • 転居に伴い宅地を売却したが私道の持分を売却し忘れた

と推定できます。

非課税の土地は、忘れられやすい

そこで隣接宅地の登記情報・閉鎖謄本を取得してみると、Cさんは、昭和40年に住所変更登記をしたうえで、宅地を売却していることが判明します。

2,登記上の住所氏名を手掛かりに戸籍調査をする

登記情報・閉鎖謄本の調査により Cさんの2か所の住所が判明しました。
問題の私道をCさんと共有しており、本件の利害関係人であるAさんから委任を受け、Cさんの戸籍調査を試みます。

Cさんの登記記録上の住所がかつての本籍と符合していれば戸籍が発行されるのですが、戸籍は見つかりませんでした。
住所証明書は当然のことながら5年の保存期間の経過により、発行されません。

住民票の除票と戸籍の附票の除票の保存期間は、住民基本台帳法の一部改正により、令和1年6月20日から、従来の5年間から150年間に伸長されました。

ただし、平成26年6月19日以前に消除または改製されたものについては、保存期間を経過しているため発行することができません。

Cさんのオフィシャルな捜索は不可能となるため、家庭裁判所で不在者財産管理人を選任することにします。

3,家庭裁判所に不在者財産管理人の選任申立をする

私道の共有者であるAさんが利害関係人として「申立人」、司法書士が「書類作成人」となり、不在者の登記上の住所地を管轄する家庭裁判所に、不在者財産管理人の選任申立をします。

形式的な疎明資料として、不在者の登記上の2か所の住所地に郵便を発送し、宛所不明の記録を入手します。不在籍不在住証明書も取得します。

◇不在籍証明書=当該氏名・本籍の人の不存在証明書
◇不在住証明書=当該氏名・住所の人の不存在証明書

また、該当地や隣接地の登記事項証明書・閉鎖謄本・固定資産評価額証明書などを添付書類として提出します。
在者さんの共有持分の固定資産税評価額は当時は67円でした。
(※現在の市の評価の算定方法によれば、おそらく7万円ほどになっていたでしょう)

不在者財産管理人候補者は、便宜、書類作成人である司法書士とし、利益相反の観点から、報酬放棄します。

不在者の財産がわずかなときは、報酬を放棄して簡単に終わらせるのも

一つの方法です

4,売買、又は時効取得で不在者財産管理人から持分を取得する

不在者の共有名義を解消する手段は2通り考えられます。

  • 売買
  • 20年の期間経過による時効取得

①の売買で進める方法は、後述する家庭裁判所による権限外許可が必要になりますが、比較的裁判所に認められやすいです。
本件の場合は依頼人であるAさんがCさんの持ち分を固定資産税評価額(67円)で買うことになります。

売買により不在者財産管理人(本件の場合は司法書士の私)がCさんの持ち分が売れたお金を預かることになるため、後にCさんが見つかった場合でも、預かっていた売買代金を渡すことでCさんに不利益がないと判断されるためです。

売買で解決する場合の図式

今回は、私道のCさんの持ち分は67円と低額に評価されたため、売買で進めることとなりました。

ちなみに、Cさんの持分価格が高額となる場合は、②の20年の期間経過による時効取得が望ましいでしょう。

こういった事例で後に不在者が現れて「土地の売却代金を支払ってほしい」となることは殆どありません。

売買価格が高額になると、そのお金をAさんが負担することになる上、不在者財産管理人は現れることのない他人の高額な財産を長年管理するという無益な財産管理を終了するために法務局に供託をします。
結局は不在者が名乗り出ることは殆どなく、その後時効を迎えますので誰にとっても不利益だからです。

本件は私道の上非課税ですし、利用実態を見ても、私道を日常的に使用している住人が所有の意思をもって平穏かつ公然と占有している事実は明白です。

不在者財産管理人としては、処分行為ではなく、客観的事実を認め、取得時効の援用を受け入れる立場にあります。
時効取得の方法を使う場合でも、念のため家庭裁判所に上申書を提出し、事前相談しておくのが無難です。

5,不在者財産管理人は、家庭裁判所に権限外行為の許可申立をする

不在者財産管理人が、申立人からの売買の申し出に応じるときは、家庭裁判所に権限外行為の許可申立をします。
売買ではなく取得時効による場合は、不在者財産管理人の自発的な法律行為は存在しないため、権限外行為の許可は不要と考えられますが、念のため家庭裁判所に上申書にて事前相談をしておきます。

6,不在者財産管理人が受け取った売買代金は、印紙代に充当する

不在者財産管理人が売買代金を受け取ると、管理財産が土地の共有持分からお金に置き換えられることになります。
今回は固定資産税評価額は67円の土地ですが、便宜、権限外許可申立の印紙代に合わせて800円の売買代金とします。
売買代金800円は、権限外許可申立の印紙代800円に費消され、管理財産はゼロになります。

7,管理財産が残った場合は供託して管理財産をゼロにする

事例では、管理財産がゼロになりましたが、土地の持分を売却しても管理財産がゼロにならないことは十分にあり得ます。

事例の土地共有持分も、現在の市の評価の算定によれば7万円ほどになっていたはずです。
この場合は、権限外許可申立の印紙代800円に充当したとしても残余財産が残る計算になります。このように残余財産が残った場合にいつまでも管理し続けるのは無益なため、供託して管理財産をゼロにします。

(※令和3年から不在者財産管理人の管理財産の供託が認められるようになりました。)

もっとも、前述したとおり不在者のための供託という行為は、妥協の産物であり非生産的です。よって、取得時効の要件を満たしているときは、売買よりも時効取得を選択する方が、経済的で、実際の手間も少なく効率的でしょう。

8,管理処分取消申立をする

売買代金を印紙代に費消して残高ゼロになるにしろ、売買代金の残余を供託するにしろ、そもそも時効により対価ゼロで持分を手放すにしろ、管理財産がゼロになった段階で、不在者財産管理人の職務はなくなります。

このように不在者財産管理人の職務がなくなった場合には、家庭裁判所に管理処分取消決定の申し立てをして、不在者財産管理人の権限を、法的にも消滅させます。

以上で、手続完了です。

概算費用(財産額200円/2筆)

項目報酬実費(立替金)
事前登記情報×2
662
周辺登記情報調査×15
4,965
戸籍請求×2(不発行)5,0000
配達証明郵便×25,0001,678
不在籍不在住証明書×25,0001,200
登記事項証明書・閉鎖謄本5,0002,400
不在者財産管理人選任申立書100,000800
予納郵券
2,954
売買契約書10,000200
持分移転登記36,0001,000
登記事項証明書
1,000
※不在者財産管理人報酬報酬放棄報酬放棄
  権限外許可申立報酬放棄報酬放棄
  管理処分取消申立報酬放棄報酬放棄
小計166,00016,859
消費税16,600
合計請求額¥199,459

まとめ

事例のように、

「自分の土地と思っていた土地が全く知らない他人の名義だった」
「長年使用している土地の名義が全く知らない他人の名義だった」

こんなときは、不在者財産管理人の選任申立や取得時効を活用することによって、案外すんなりと解決できることも珍しくありません。
現在又は将来の相続や土地建物の名義の問題でお悩みのあなたが、いま何をできるかをご提案させて頂きます。

当事務所は、
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