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【相続人行方不明時の相続手続き】相続人が失踪!7年間の財産管理から失踪宣告までを解説

相続人が失踪!7年間の財産管理から失踪宣告までを解説 相続

〈2013~2020 年解決事例〉
(※プライバシーへの配慮から編集を施しております)

相談内容…相続人の一人が行方不明。全員の実印が揃わなくても手続きできる?

先日父が亡くなりました。相続人は、私(長女)、妹(二女)、弟(長男)の3名です。
葬儀、役所への届出、年金手続、死亡保険金の請求、葬儀費用や医療費の支払いなどを終え、ホッとしたのもつかの間、父の遺産の相続手続が待っています。

困ったことに、相続人の一人である弟(独身・子どもなし)が、数か月前に失踪して行方不明となっています。
警察へ行方不明届をしましたが、まだ発見されていません。勤務先に問い合わせても、手掛かりは得られません。
自宅にあった弟の通帳を記帳してみると、住宅ローン・団信・火災保険・通信費・水道・電気料金・クレジットカード・生命保険・固定資産税などの引落があります。

行方不明の弟を含めた相続関係図


父の遺産の相続手続を行方不明の弟の印鑑なしで手続できないでしょうか?
弟の通帳や家の管理も、私たち姉妹が代わりにできないでしょうか?
銀行や役所に行っても取り合ってもらえず困っています。

父の相続手続と弟の財産管理はどうしたらよいのでしょうか?

相続手続には相続人全員の実印が必要

相続手続では、司法書士が作成した遺産分割協議書に、相続人全員が実印を押印し印鑑証明書をつけて、預金や家などの遺産の名義変更を行います。

例外的に、故人が遺言や家族信託などの生前対策をしていた場合は、遺産分割協議は不要です。

本件では、被相続人であるお父様が生前対策をしていなかったので、原則通り相続人三名全員が遺産分割協議書に実印を押印し、印鑑証明書をつけて遺産の名義変更をする必要があります。

では、行方不明の弟はどのようにして実印を押印するのでしょうか?

実際の解決方法…不在者財産管理人を選任する

行方不明の弟の実印はどうするかというと、家庭裁判所で不在者財産管理人という代理人(財産管理人)を選任し、弟の代わりに遺産分割協議書に押印します。

「行方不明者=不在者」と考えると分かりやすい

1,不在者財産管理人の選任手続の依頼

弟さんの不在者財産管理人を家庭裁判所で選任する手続きは、司法書士又は弁護士に依頼します。
提出先は、弟さんの住所地の家庭裁判所です。

2,不在者財産管理人の候補者

不在者財産管理人候補者は、申立手続きを依頼する司法書士又は弁護士に依頼すると引継ぎが不要となり効率的です。

ただし、都道府県によって財産管理人の選任基準に違いがありますので、希望した候補者が選任されるとは限りません。
候補者が選任されなかった場合は、家庭裁判所が適切と判断した弁護士が選任されることになります。

3,不在者財産管理人は、弟の財産とともに、父名義の遺産も整理・管理する

不在者財産管理人は、家庭裁判所で選任され次第、弟の財産・負債・収支などを、郵便物・通帳・金融機関で確認して、一覧にして整理・管理します。
父名義の未分割の遺産も管理財産となりますので、父の遺産を調査し、一覧にして整理・管理します。

4,相続人と不在者財産管理人が、遺産分割協議をする

不在者財産管理人が選任され、弟の財産が、ほどほどに整理できた段階で、父の遺産の相続手続を進めます。遺産分けの内容を話し合い、書類に実印を押印する人は、相談者、妹、不在者財産管理人の3名です。

5,不在者財産管理人には、法定相続分を確保する義務がある

弟が行方不明になっていなければ、遺産分割協議はきょうだい3名の自由な話し合いにより、遺産の取り分も自由に決めることができました。
しかし、不在者財産管理人は良くも悪くも弟の権利を確保する義務が生じます。

不在者財産管理人には、父の遺産の分割協議において、弟のために、原則として、法定相続分である3分の1を確保する義務が生じます。遺産分割協議書の内容について家庭裁判所の許可も必要となります。

法定相続の図

6,if…「帰来時弁済型の遺産分割協議」という方法

今回のケースでは、父の遺産に充分な預金があったため、弟の法定相続分である3分の1を遺産から確保することができました。

とはいえ、遺された財産のほとんどが自宅などの不動産である場合があります。
そうなると、原則に従い不在者財産管理人に3分の1を分配するのは大変です。

そのような場合は例外的に、遺産である不動産などを残りの相続人が取得し、行方不明者が戻ってきたときに代償金を支払うという帰来時弁済型の遺産分割協議が認められるケースもあります。

帰来時弁済型の遺産分割協議が認められるかどうかの判断においては、次のような要因が考慮されるものと考えられます。

  • 不在者が戻ってくる可能性が極めて低い
  • 不在者に子がいない
  • 遺産の大半が不動産で預貯金が少ない
  • 帰来時弁済をする相続人に十分な資力がある

7,不在者財産管理人は、不在者の財産を7年管理する

不在者財産管理人は原則として現状維持的な財産管理人です。
不動産などの重要な財産を売却処分するときなどは家庭裁判所の許可が必要となります。

以下、具体的な財産ごとの管理方法を列記します。

  • 預貯金
    • 預貯金は現状維持的に管理します。
      1000 万円を超える預金額についてはペイオフの関係で決済用預金に変更するか、他行に分散します。住宅ローンの引落などに備えて、口座間の資金移動をします。
  • 年金
    • 年金事務所に問合せ、不在者財産管理人選任審判書を提出し、所定の手続きをします。
  • 元勤務先
    • 元勤務先に問合せ、不在者財産管理人選任審判書を提出し、所定の手続きをします。
  • 携帯電話契約の解約
    • 携帯電話については本人が現在も使用している形跡がない限り、速やかに解約します。
  • 自動車の処分
    • 自動車は、本人による使用は期待できないため、家庭裁判所の許可を得たうえで、速やかに売却等の処分をします。
  • サブスクリクション(動画配信サービスなどの定期購入)の解約
    • 各種サブスクリクションも、暫定的に必要と判断できるものを除き、速やかに解約します。
  • クレジットカード
    • 毎月の明細を確認しつつ、カードによる必要不可欠な支払いを無くした時点で解約します。
  • 株式・投資信託
    • 株式や投資信託は、現に保有している分についてはそのまま保有しても良いし、市況を見つつ家庭裁判所の許可を得て、売却換金することも検討します。
      毎月の投資積立については新規の投資行為といえるため、現状維持的な財産管理人としての立場上、速やかに積立を停止するのが無難でしょう。
  • 確定申告
    • 弟がサラリーマンであれば、就任後初年度のみ確定申告をします。社会保険料控除、生命保険料控除などを組み込み、適切に還付を受けます。住宅ローン控除は、居住の要件を満たさず受けられません。
  • 住宅
    • 住宅を売却するか否かは、7年後の失踪宣告により団信で完済されるローンの額と、住宅の経年劣化による減価額、7年分の固定資産税・火災保険料等の維持管理費の合計額とを比較しつつ、相談者や妹の意向を確認して、売却の可否を検討します。
  • 家庭裁判所への定期報告
    • 不在者財産管理人は、年1回、不在者の住民票を確認しつつ、1年間の財産管理の状況を一覧にして家庭裁判所に報告します。

8,失踪から7年後に失踪宣告をして、弟名義の財産について相続手続をする

弟の行方不明の状態が7年間継続すると、弟について失踪宣告の申し立てをすることができます。
失踪宣告とは、不在者を法律上死亡したものとみなす制度です。

失踪宣告は、あくまで問題となる法律関係の枠内で、日本の戸籍上死亡したものとみなす、便宜的な制度です。
失踪宣告を申し立てたからと言って、不在者が実際に死亡しているというわけではありません。

失踪宣告を申し立てると、家庭裁判所での審査後、3か月以上の公告期間を経て、失踪宣告の効力が生じ、弟は法律上死亡したものとみなされます。

失踪宣告を申し立てるに際しては、相談者様だけでなくご家族である妹さんの意向も確認します。
当然ながら、ご家族がご希望されない場合は失踪宣告は必ずしも必要ではありません。
弟さんは連絡がつかないだけでどこかで元気に暮らしている可能性もあるためです。

ただし、不在者が限りなく死亡している可能性が高い場合などは、不在者の財産を永遠に管理していくことは現実的でなないため、遺されている方の財産管理をスムーズにするために失踪宣告を申し立てることは有効な手段です。

死亡したものとみなされる日は、失踪日の翌日から7年の期間満了日です。
失踪宣告の後、弟名義の財産については相談者様と妹さんが遺産分割協議をして相続手続(名義変更)を行います。
弟の死亡を支払事由とする団信については、保険金の請求をし、住宅ローンが完済されます。

その他、弟を被保険者とする死亡保険金がある場合は、受取人が請求することにより、保険金を受け取ることができます。

まとめ

行方不明といえば、不在者財産管理人の選任手続です。

ただし、失踪からすでに7年経過しているときは、不在者財産管理人を申し立てることなく、最初から失踪宣告を申し立てます。

行方不明の方に、相続する財産や、住宅や住宅ローンなどの管理すべき財産・負債がある場合には不可欠な手続です。
その他にも、家族や親族が行方不明で財産管理に困っている方は、お早めに専門家に相談することをお勧めします。

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