〈2021 年解決事例〉
(※プライバシーへの配慮から編集を施しております)
相談内容
88歳の母親がおり、いずれ訪れる相続のために、母が元気なうちに生前対策を行いたいです。
父は10年前に他界、兄も5年前に独身のまま亡くなっており、母親の相続人は長女であるわたし一人です。
母には不動産3000万円と預金300万円の財産があり、特に生前対策を行わない場合、相続発生時には長女であるわたしが母の全財産を引き継ぐことになります。
わたしが相続した母の財産は、やがてはわたしの子、母からみれば孫が相続することになるため、わたしの代を飛ばして前倒しで母から孫へ直接財産を取得させたいと考えています。
祖父母の財産を孫に直接相続できる?
「亡くなった親の名義である家を、一代飛ばして直接孫に名義変更することはできないか?」
こういった質問を時々お受けします。
しかし、相続が始まった後では、孫に直接名義変更することはできません。
どうしても孫名義にしたければ、一旦相続人である子の名義に相続登記した上で、孫へ贈与登記をすることになります。
反対に、相続が始まる前に、生前対策をしておけば、孫に直接名義変更することができます。
今回の相談者様は、将来の相続を見越して、生前対策としての遺言公正証書の作成をご依頼されました。
生前対策の比較表
生前対策には、4つのメニューがあります。
生前贈与 | 遺言 | 家族信託 | 養子縁組 |
次に比較表をお示ししつつ、解説を加えさせていただきます。
(土地固評 2550 万円、建物固評 150 万円)
(土地路線価 2850 万円、建物固評 150 万円、計 3000 万円)
生前贈与 | 遺言 | 家族信託 | 養子縁組 | |
---|---|---|---|---|
贈与税 | 1,000,000 | - | - | - |
生前対策費用 (公証人込) | 100,000 | 150,000 | 600,000 | 0 |
相続手続報酬 | 0 | 80,000 | 80,000 | 120,000 |
登録免許税 | 540,000 | 108,000 | 82,500 | 108,000 |
不動産取得税 | 420,000 | - | - | - |
相続税 | -1,000,000 | 0 | 0 | 0 |
計 | 1,060,000 | 338,000 | 762,500 | 228,000 |
各生前対策の特徴
【生前対策①】生前贈与
生前贈与は、もっともシンプルな生前対策ですが、登録免許税や不動産取得税が高率なのが難点です。
贈与税が、相続税回避の防波堤として一定の役割を果たすのは理解できますが、登録免許税や不動産取得税に数十万円かかるのは不合理な現状と考えられます。
高率な登録免許税や不動産取得税のおかげで、大半の不動産の生前贈与が断念されている現状があります。
【生前対策②】遺言公正証書
遺言公正証書は、もっともメジャーな生前対策で、令和の相続の必需品です。
子などの法定相続人だけでなく、孫や甥姪など、法定相続人として遺産相続の対象とならない親族にも、低コストで財産を遺贈できるのがメリットです。
遺言作成で注意すべき点は、遺留分です。
法定相続人である子の法定相続分×50%が遺留分としてあるため、将来遺留分を主張される懸念がある場合は、預金や生命保険で遺留分に対応できるように準備しておく必要があります。
今回は唯一の法定相続人からのご依頼であるため遺留分の心配はほぼないといえるでしょう。
【生前対策③】家族信託
家族の遺産承継を、綿密に検討したい場合は、家族信託(民事信託)がお勧めです。
家族信託は、相続法の制約を受けない柔軟な財産の管理・承継を設計できるのが利点です。
設計に際してのポイントは、想定外の事態を最小化することと、贈与税課税がされないように受益権の行方をコントロールすることです。
【生前対策④】養子縁組
生前対策のダークフォースは養子縁組です。
養子縁組により、孫や甥姪など法定相続人でない人を法定相続人(養子)に変えることができます。
相続税法上の基礎控除の算定根拠としては、原則1名までしか認められませんが、相続手続上の遺産の受取人としては、人数による制約を受けません。
苗字が変わる、戸籍上の異動が発生するなどの点において、心理的に抵抗がなければ、積極的に考慮すべき生前対策といえるでしょう。
検討の結果、遺言公正証書を作成
今回は検討の結果、遺言公正証書を採用することにしました。
ご依頼の一番の目的が、相続手続を一代省略して、コストを節約したいという点でしたので、生前贈与や家族信託は採用できません。
また、孫と養子案組すると孫の名字が変わる関係にあり、苗字の変更を望まないとのことでしたので、養子案組も採用できません。
よって、もっともメジャーで穏当な遺言公正証書を作成することになりました。
遺言公正証書の依頼から作成まで
遺言公正証書作成の段取りは次の通りです。
- 遺言者の印鑑証明書を取得
- 司法書士から公証人に文案と資料を送信
- 全財産を○○に包括的に遺贈する。
- 遺言執行者として○○を指定する。
- 公証人から司法書士に最終文案と公証人手数料の送信
- 日程調整のうえ、公正証書作成
将来的に相続が発生した際の段取り
遺言公正証書を作成したことで、将来の相続発生時には相続人の印鑑は不要となり、遺言執行者の印鑑のみで遺産の名義変更ができます
不動産については、受遺者兼遺言執行者が、遺言公正証書、故人の除籍謄本、遺言執行者の印鑑証明書、登記済証(又は登記識別情報)を持参して、司法書士に遺贈の登記を依頼します。
預金については、受遺者兼遺言執行者が、金融機関窓口に、遺言公正証書、故人の除籍謄本、遺言執行者の印鑑証明書、通帳を持参して、解約手続をします。
概算費用(財産額3300万円/受遺者1名)
項目 | 報酬 | 実費 |
---|---|---|
事前登記情報×5 | 1655 | |
戸籍代行取得×2 | 5,000 | 750 |
公正証書文案作成・証人① | 82,500 | |
公証人手数料 | 42,500 | |
証人② | 5,000 | |
小計 | 87,500 | 49,905 |
消費税 | 8,750 | |
合計請求額 | ¥146,155 |
まとめ
今回は、主に将来の遺産承継のコストを節約するために遺言公正証書を作成した事例でした。
法定相続人ではない、孫や甥姪などに財産を承継させたい場合は、遺言公正証書をご検討ください。
当事務所は、
①円満相続については効率よい手続
②疎遠・複雑な相続については出来る限りの対処療法
③資産の凍結を防ぎたい・相続トラブルを予防したいご家族には家族信託・遺言・生前贈与などの生前対策
ご提案・ご提供することにより、皆様の安心・円満な相続と有効な資産の利活用にお役立ちすることを使命としております。
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