〈2021 年解決事例〉
(※プライバシーへの配慮から編集を施しております)
相談内容…多額の資産を残して異父兄が他界。財産を引き継ぎたいので姪たちには相続放棄してほしい
わたしの父母はお互い子持ちの再婚同士です。
父母から産まれたのはわたし一人ですが、父側に前妻の間との異母兄が2人、母側に前夫の間との異父兄が一人います。
父側の異母兄は2人とも他界しており、それぞれに姪が計5人。
比較的疎遠に暮らしています。
この度、同じ町内に住む母側の異父兄を亡くしました。
異父兄はずっと独身一人暮らしで、子はおらず、倹約家で土地建物や多額の預貯金などがあるようです。
わたしが異父兄の一番近くに住んでいるため、疎遠である姪たちには相続放棄してもらい、私が異父兄の遺産を全て引き継ぎたいと考えていますが、可能でしょうか?
今回のポイントは、全ての相続人の意向確認です。
以下、順番に解説いたします。
司法書士は中立的な書類作成人・代書人
まず初めに知っておいていただきたいのが、「司法書士は中立的な書類作成人・代書人」ということです。
本件の場合は亡くなった異父兄から妹さんである相談者様に「全て相続する」といった内容の遺言書があるわけではないため、全ての相続人に平等に法定相続分を相続する権利があります。
ですので、相談者様に「異父兄の遺産を全て引き継ぎたい」という希望があったとしても、他の相続人の方が法定相続分を相続したいという意向を示した場合、当然ながらそのように事が進みます。
それをご理解頂いた上で、できる限り相談者様の意向に沿ったご対応をしていく流れになります。
解決方法…相続人調査をして相続通知書を送り意向を確認する
1,相続人調査
相続手続といえばまずは相続人調査・戸籍調査です。
集める戸籍は次の通りです。
- 相談者様の出生から現在までの連続した全ての戸籍
- 相談者様の印鑑証明書
- 被相続人の出生から現在までの連続した全ての戸籍
- 被相続人の発行できるすべての附票
- 被相続人の両親の出生から死亡までの連続した全ての戸籍
- 義兄2人の出生から死亡までの連続した全ての戸籍
- 姪5名の戸籍謄本・戸籍の附票
戸籍をすべて取り寄せたら、法定相続情報を取得します。
遺産の額が基礎控除額を超えることが確実で、相続税申告用に残高証明書を取得するためです。
法定相続情報は、今後の相続登記、預金解約、有価証券移管、相続税の申告にも使用します。
相続税基礎控除額=3000 万円+600 万円×6= 6600 万円
2,遺産調査
不動産、預貯金、有価証券等について遺産調査をします。
不動産は税務課で名寄帳(なよせちょう)を取得します。
預貯金は、自宅にある通帳を手掛かりに、金融機関の支店で全店照会をし、残高証明書を取得します。
持ち物は、法定相続情報、申請する相続人の実印・印鑑証明書・免許証です。
有価証券は、通帳の履歴や自宅にある郵送物を手掛かりに、郵送で残高証明書を取得します。
提出書類は、申請書、法定相続情報、申請する相続人の実印・印鑑証明書・免許証です。
その他、葬儀費用明細、医療費明細を確保しつつ、各種保険の証券や郵便物がないか確認します。
その他、葬儀費用明細、医療費明細を確保しつつ、各種保険の証券や郵便物がないか確認します。
3,相続通知書・相続人の意向確認
相続人調査と遺産調査が完了した段階で、法定相続人5名に相続通知書を出します。
この通知書により相談者様以外の相続人の方たちは、「相続があること」を知ることができます。
そして「相続放棄する」又は「遺産分割協議に参加する」の意向確認を行います。
相談者様の本人名義で、司法書士は中立的な書類作成人・代書人として、相続通知書を出します。
次表は、相続通知書を出す相続人との関係性による内容の判断基準です。
今回は、相談者様と他の相続人5名の皆さんとの関係性が「10年以内に会っている又は連絡可能な状態」でしたので、初回の手紙としては上記表のピンクの斜線で囲った対応(遺産非開示、遺産概要開示、遺産詳細開示)どれでも許容範囲と考えられました。
相談者様のご希望は「初動段階では他の相続人に遺産の中身を見せたくない」とのことでしたので、相談者様の意思を尊重して遺産の中身を開示することなく、「相続を承認して遺産分割に参加するか」「相続を放棄して遺産分割から離脱するか」回答頂くこととなりました。
ここで注意しなければならないのは、より疎遠な関係の相続人に今回のように遺産非開示で手紙を出すことはNGであるということです。
(表の☓や△に当たります)
法に触れるわけではありませんが、誠意かける行動であり、後々大きなトラブルに発展する可能性があり、頓挫してしまうことも珍しくないからです。
最終的には、遺産非開示で相続人通知書を出したとしても許される関係にあるのかを相談者様にご判断いただくこととなります。
相続通知書に対して姪の5名中4名は、遺産の内容にかかわらず相続放棄を選択し、1名(姪A)が法律上どういう権利があるかを確認して回答したいとのことでした。
中立的な書類作成人として次の通り法律通りの説明をさせて頂きました。
- もともと姪Aの父(故人の義兄)には半血兄弟として4分の1の法定相続分があったということ
- 相続人全員が相続承認すると義兄の4分の1を姪3名が分け合い姪Aの法定相続分は12分の1となること
- 相談者と姪A以外の相続人4名が相続放棄をすることにより相続人は2人になるので、相続放棄後の法律上の相続分は「相談者…全血兄弟として3分の2」「姪A…半血兄弟として3分の1」となること
- 相続放棄する4名の放棄の趣旨としては相談者にご自分の持分を譲るという意思の傾向があること
上記の説明を判断材料とすると、姪Aは法律上最大の1/3、諸事情を考慮して最小1/12の相続分としてご自身の相続分を主張することが考えられます。
最終的に、姪Aとしては、
「相談者様が特に被相続人の介護等の身の回りの世話をした関係ではなく、たまたま一番近くに住んでいるにすぎないこと」
という点考慮して、3分の1に相当する代償金を受け取ることで了承する旨の回答を提出されました。
相続放棄などの諸手続き
1,相続放棄
相続人全員からの回答が出揃い、相談者様、姪Aを除く4名は相続放棄します。
上記の915条の規定を根拠に、原則、故人の死亡から3カ月以内に相続放棄申述書を家庭裁判所に提出します。
段取りは次の通りです。
- 司法書士が戸籍調査・法定相続情報取得
- 司法書士が相続人に相続放棄申述書を送付→捺印→返送
- 司法書士が家庭裁判所に相続放棄申述書を提出
- 家庭裁判所から相続人にご自身の意思で相続放棄したのかなどの確認の照会→返送
- 相続放棄申述受理通知書発行
2,遺産分割協議
相続放棄と並行で、遺産分割協議を進めます。
今回は、相談者様が全財産を相続しつつ、遺産の3分の1に相当する代償金を姪Aが受け取る内容です。
相続税申告案件でしたので、税理士による相続税評価額の算定を待って、相続税評価額を基準に3分の1に相当する代償金を設定し、遺産分割証明書を作成します。
遺産分割証明書をそれぞれに交付・送付し、実印押印いただきご返送頂き、遺産分割協議が成立します。
法定相続情報、相続放棄申述受理通知書4通、遺産分割証明書2通、印鑑証明書2通を1セットにして相続証明書ファイルにします。
3,相続登記
相続証明書ファイルを提出して、不動産所在地の管轄法務局に相続登記を申請します。
法定相続情報を発行済みの場合は、1週間程で相続登記が完了し、不動産の名義が相談者様に変更されます。
4,預金の相続
相続証明書ファイル、相談者様から司法書士への委任状、入金先の口座情報を元に預金解約し、相談者様の口座に相続預金を入金します。
数日から3週間ほどで相続預金が解約され相談者様の口座に入金されます。
5,有価証券の相続
相続証明書ファイル、相談者様から司法書士への委任状を証券会社に提出して、有価証券の移管手続を行います。
有価証券の相続・移管には、当該証券会社の口座が必要ですので、相談者様に当該証券口座を開設いただき、有価証券を移管します。
マイナンバー、年収、資産額などプライベートな情報が必要となりますので、ご自身にご記入いただき、証券会社に提出します。
6,税理士への引継
税理士には、相続証明書ファイル一式をデータで提供しつつ、相談者様経由で原本も確認いただき、相続税申告手続きをして頂きます。
以上で、相続手続完了です。
概算費用(遺産額1億7000万円/10物件)
項目 | 報酬 | 実費 |
---|---|---|
事前登記情報×10 | 3,310 | |
戸籍代行取得×27 | 67,500 | 16,500 |
法定相続情報 | 10,000 | |
預金残高証明書×2 | 10,000 | |
証券残高証明書×1 | 5,000 | |
相続人5名への通知書作成 | 30,000 | |
相続人5名への通知書送達 | 15,000 | |
相続放棄×4 | 70,000 | 3,200 |
遺産分割証明書 | 175,000 | |
調整 | -75,000 | |
相続登記 | 85,000 | 160,000 |
事後登記情報 | 3,310 | |
預金解約代行×2 | 78,000 | |
証券移管サポート×1 | 45,000 | |
小計 | 515,500 | 186,320 |
消費税 | 51,550 | |
合計請求額 | ¥753,370 |
まとめ
以上、相続人調査、遺産調査、相続通知書、相続放棄、遺産分割協議、相続登記、預金解約、有価証券移管、相続税申告の9段階を経て相続手続完了となります。
円満相続でしたので、専門家としては順を追って段取りよく手続を進めるのが基本です。
唯一ポイントとなるのは、相続通知書・相続人の意向確認です。
相談者様に対する法律上の説明と、姪Aに不信感を与えることなく公平な情報開示をすることがポイントと考えます。
依頼者の意向によっては、情報を伏せて、自分に有利に誘導してほしい旨を話される方もいらっしゃいます。
しかし、そのような行為が許されるのは、弁護士が特定の相続人から依頼を受けて、依頼者の利益を最大化するために交渉・尽力する段階であり、もはや円満相続の段階ではありません。
円満相続のポイントは、自己の利益を欲しつつも、他の相続人の法律上の権利に理解を示しつつ、バランスの取れた現実的な解決を許容する心持ちです。
当事務所は、
①円満相続については効率よい手続
②疎遠・複雑な相続については出来る限りの対処療法
③資産の凍結を防ぎたい・相続トラブルを予防したいご家族には家族信託・遺言・生前贈与などの生前対策
ご提案・ご提供することにより、皆様の安心・円満な相続と有効な資産の利活用にお役立ちすることを使命としております。
ご相談・ご依頼を心よりお待ち申し上げております。