〈2013~2014年解決事例〉
(※プライバシーへの配慮から編集を施しております)
相談内容…相続登記をする前に相続人の一人が他界。どうしたら?
先代のころから親族で共有している土地を約30年貸しています。共有地上には借り主が建てた建物がありますが、ここ5年は遊休状態で地代も滞りがち。固定資産税も高いので、土地の賃貸契約を解除して更地にし、売却したいと考えています。
共有地は、伯父、叔母、私の父の3名で登記されていますが、この三名は全員ずいぶん前に他界しています。相続人は私を含めた「いとこ」の5名です。すぐに相続手続きを行えばよかったのですが、数年放置している間に相続人の一人である「いとこA」が他界してしまいました。
いとこAには配偶者も兄弟姉妹もいないため、いとこAに代わる相続人が不在の状況です。

相談事項は以下の3つです。

- 独身で兄弟姉妹もいない「いとこA」には相続人がいないが、「いとこA」の持分をどのように名義変更すればよいでしょうか?
- 賃貸借契約を解除し、土地を更地にして返してもらうにはどうしたらよいか?
- 市街化調整区域で売りにくい土地のようですが、不動産会社を紹介して買い手を見つけて欲しいです
解決までの流れ…相続人不存在時の具体的な対応
独身で兄弟姉妹もいない「いとこA」には相続人がいない=相続人不存在
相続人として認められるのは、次の3パターンです。
第1順位…子(又は孫)+配偶者
第2順位…親(又は祖父母)+配偶者
第3順位…兄弟姉妹(又は甥姪)+配偶者
独身で子・親(又は祖父母)・兄弟姉妹(又は甥姪)の全員がいない(又は死亡している、相続放棄している)方には、相続人がいないことになります。
これを相続人不存在といいます。
自分の立場から見た相続人不存在となる親族・親戚は、次のような場合
・独身で兄弟姉妹がいない「いとこ」
・既婚だが配偶者を先に亡くした兄弟姉妹がいない「いとこ」
・独身で兄弟姉妹がすでに全員他界している「いとこ」
・既婚で子もいたが、配偶者・子・兄弟姉妹全員に相続放棄された「いとこ」

このような相続人不存在である「いとこ」の遺産は、誰のものとなるのでしょうか?
解説していきましょう
相続人不存在の遺産は、国に帰属するが、例外もある
相続人不存在の遺産は、原則として、国のものとなります。
例外的に、特別縁故者や遺産の共有者は、国に優先して遺産を取得できることがあります。
国・共有者に優先する「特別縁故者」
次のような「特別な」縁故者は、申出により遺産を取得できる可能性があります。
- 長年連れ添った内縁の配偶者・パートナー
- 戸籍上の親子関係を証明できないが、お互いの親子関係を認めるなど長年生計維持関係にあった同居人など
単なる「縁故者」ではなく相続人と同等といえるような「特別な」縁故者と認められる必要があります。今回は、特別縁故者に該当する方はいませんでした。
国に優先する「遺産の共有者」
相続人不存在の遺産が共有の場合は、特別縁故者が現れない限り遺産は他の共有者に帰属します。
今回のような共有不動産が典型例です。

「相続人不存在の共有持分は他の共有者に帰属する」
今回はいとこAの共有地持分を相談者様と他のいとこたちで分けて登記(名義変更)することができます
※共有地以外のいとこAの財産は国に帰属します
相続人不存在の手続スケジュール
相続人不存在のときは家庭裁判所で相続財産管理人を選任して、遺産の清算手続きを進めます。
相続人不存在の手続きは、最短でも13か月間の長期戦となります。
スケジュールは次の通りです。
01.司法書士又は弁護士へのお問合せ・相談
司法書士にお問合せ頂き、ご相談頂きます。ご相談の結果、相続人不存在と不動産などの処理すべき遺産が判明した場合は、相続財産管理人の選任手続が不可欠となります。
手続の見通し、費用、スケジュールを確認して、依頼します。
不動産などの処理すべき遺産があるときのみ、相続財産管理人を選任する意味がある
02.申立て前の遺産調査
「いとこ」は遺産調査権の根拠に乏しい立場にあるため、可能な範囲で遺産調査を行います。
今回のような共有地であれば不動産の調査は比較的容易でしょう。預貯金その他の遺産や債務などは、郵便物等で可能な範囲で調査します。
03.申立て前の相続人調査
相続人調査は、手続きを依頼する司法書士に依頼します。
司法書士は、Aの出生から死亡までの連続全戸籍を集め、Aに子がいないことを確認します。
次に、Aの両親の出生まで遡った連続全戸籍を集め、Aに兄弟がいないことを確認します。
以上の、戸籍調査により、戸籍上は相続人不存在であることが分かります。
04.相続財産管理人選任の申し立て
申立前の遺産調査と相続人調査が完了次第、司法書士が、相続財産管理人選任申立書を作成し、家庭裁判所に提出します。
05.相続財産管理人選任の官報公告(2か月間以上)
申立書の提出から 1 カ月ほどで、家庭裁判所が弁護士を相続財産管理人に選任し、2か月間公告します。
相続財産管理人は、伯父の土地持分をA名義に相続登記し、A持分を相続財産法人に氏名変更登記します。

相続人不存在の遺産は、法人とみなされます。
遺産は原則として現金化し、負債を返済した後で相続財産管理人の
報酬を支払い、残ったお金は原則として国に帰属します。
06.相続債権者・受遺者宛の官報公告(2か月間以上)
相続債権者や受遺者に請求申出の機会を与えるため、2か月間の官報公告をします。
07.相続人捜索の官報公告(6か月間以上)
戸籍上に反映されていない子・兄弟姉妹などの相続人に申出の機会を与えるため、6か月間公告します。
期間内に相続人が現れなければ相続人不存在が確定します。
08.特別縁故者の財産分与申立期間(3か月間)
相続人捜索公告完了後3か月間、特別縁故者に対する財産分与の申立期間が確保されます。
期間内に特別縁故者が現れなければ特別縁故者不存在が確定します。
09.共有者への持分帰属
特別縁故者不存在が確定すると、相続財産法人の土地持分が他の共有者に帰属します。
相続財産管理人と共有者の従兄弟4名が共同して、特別縁故者不存在確定による従兄弟4名への持分移転登記をします。
10.国庫への帰属
共有物(不動産)を除くその他のAの遺産は、すべて換金し各種費用を支払ったのちに国に帰属します。
以上のとおり、相続人不在の「いとこ」が共有地などの遺産を残して亡くなった場合、どんなに短くとも13カ月間はかかる非常に煩雑な相続財産管理手続が必要となります。
ただし、もしAが生前に遺言公正証書を作成していたならば、以上の相続人不存在の手続きは不要でした。
賃貸借契約解除・土地明け渡しについて
次に、賃貸借契約解除・土地明け渡しについてです。
賃貸借契約解除、解体撤去費用相当の解決金分割払、土地明け渡しの合意を公正証書にしました。その後、公正証書の内容通り6年間で解決金の分割払いが完了しました。
土地の売却について
土地の売却については、不動産会社を紹介し、事業用地としての買い手が見つかり、売買契約・測量・開発許可・農地転用の許可をへて、売買代金の決済が完了し、代金を4名で分配することができました。
相続で苦労をしないために遺言公正証書をご検討ください
身近な親族、身の回りの世話をしている親族に、相続人が見当たらない方がいる場合には、遺言公正証書などの生前対策をご検討いただきましょう。
普段はお付き合いがない方でも思わぬ落とし穴があります。
生前対策しておかないと、いざという時に非常に煩雑で時間もかかる手続が必要となる場合があります。
ご自身が相続人不存在に当たる方は、お世話になった親族や友人に、相続人不存在による複雑な手続きの手間をかけさせないためにも、遺言を作成しておきましょう。
相続人がいない方が遺言で財産を遺したい場合の具体例

相続人がいない方が財産を遺したい場合、次のような方へ遺されることが多いです
- お世話になった親族・友人などの個人
- 遺産を有効活用してもらいたいと思うNPOなどの団体
ご自身の遺産についての遺言を作成するにあたっては、遺言の実効性確保の観点から、次の2つの典型例を参考にされることをお勧めします。
まとめ
- 相続人不存在=配偶者、子・孫、親・祖父母、兄弟姉妹・甥姪の全員がいない又は相続放棄
- 相続人不存在の「いとこ」が生前対策していないと、13カ月間の相続財産管理と国への帰属手続が必要
- 特別縁故者や遺産の共有者は、国に優先して遺産を受け取ることができる場合がある
- ご自身が相続人不存在に当たる方は、ご自分の遺産の処理で裁判所のお世話にならないように、遺言又は家族信託などの備えをしておきましょう
- 「後悔先に立たず」相続人不存在の親族がいる時は、ご本人同行のうえ生前対策の相談を受け、後悔のない対策をしておきましょう
- 相続人不存在の方が遺言で財産を渡す場合は、基本的にはお世話になった親族・友人などの個人がお勧め
- NPOなどの団体に遺産を渡したいときは、清算型包括遺贈とし、遺言執行者において全財産を現金化して金銭を遺贈する内容とする

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