〈2021 年解決事例〉
(※プライバシーへの配慮から編集を施しております)
相談内容…父が他界し、相続税申告が必要です。遠方に住んでいるためスムーズに遺産相続を行いたい
東京在住の長男様から、岐阜在住のお父様の遺産相続手続のご依頼です。
相続人は、岐阜在住のお母様、東京在住の長男様、岐阜在住の妹様の3名です。
遺産は、自宅1500万円と預貯金・株式等の金融資産4500万円、合計6000万円です。
遺産の額が、相続税の基礎控除額4800万円をこえるため、10カ月以内に相続税申告が必要です。
お父様の相続税の基礎控除額
3000 万円 +(600万円 × 3 名)=4800 万円
円満な相続で、遺産分割の内容も「子である相談者様、妹様に財産を分けないで母が全財産を取得する」ということで確定していました。
母が全財産を取得すると、将来的に母の相続が発生した際に税務上のデメリットがある可能性をご理解いただき、相続手続を進めることになりました。
今回のポイントは、父の1次相続のときに母の 2 次相続を想定しておくこと、不動産、預貯金、株式等の遺産承継業務一切を司法書士に代行依頼するという点でした。
以下、順番に解説いたします。
父の一次相続・母の二次相続を通じた相続税単純化表
最初に、父の一次相続における母の取得割合【100%・50%・0%】に応じた母の二次相続まで含めた相続税額の単純化表をご確認ください。話を単純化するために、次の前提で表を作成しております。
父他界後〜母が亡くなるまでの間、母の生活費は母自身の年金や預貯金からまかない、父から相続した預金が減ることがない。
父の一次相続・母の二次相続を通じた相続税単純化表(単位:万円)
父の一次相続 【課税相続財産】 6000-4800=1200 【法定取得財産×税率】 母 600×0.1=60 長男300×0.1=30 長女300×0.1=30 【相続税総額】 120 | 母の二次相続 【課税相続財産】 6000-4200=1800 | 相 続 税 合 計 額 | |
---|---|---|---|
一次相続で 母【100%】遺産分割 | 母 6000=100% 長男 0= 0% 長女 0= 0% 相続税 0 | 長男 900×0.1=90 長女 900×0.1=90 相続税 180 | 180 |
一次相続で 母【50%】遺産分割 | 母 3000=50% 長男1500=25% 長女1500=25% 相続税 60 | 3000-4200<0 相続税 0 | 60 |
一次相続で 母【0%】遺産分割 | 母 0= 0% 長男3000= 50% 長女3000= 50% 相続税 120 | 0-4200<0 相続税 0 | 120 |
父の一次相続で母【100%】の場合
最終的な相続税額は最も高くなりやすい。
相続税が高くなってもこの方法を採用するケースは次の通りです。
- 母に高額な老後資金を予定している
- 母名義でのアパート建築など節税対策を予定している
- 実家の取り扱い等が見通せず問題の先送りをせざるを得ない
一次相続で母【50%】
- 最終的な相続税額は最も安くなりやすい。
- 専門家的としては最もお勧めできる遺産分割案。
一次相続で母【0%】
- 最終的な相続税額は、中程度になる傾向。
- 採用するケースは次の通り。
- 母の子に対する信頼が厚く、子にすべてを任してよいと考える場合
- 高齢な母の将来の認知症対策として
今回のご相談者様は、子の間で将来の実家の取り扱い等が見通せず問題の先送りをせざるを得ない場合に該当し、一次相続で母【100%】にする内容で遺産分割をすることとなりました。
具体的な解決方法…遺産承継業務一切を司法書士に代行依頼することでスムーズに解決
1,相続人調査としての戸籍の取得
相続手続で最初にするのは相続人調査としての戸籍集めです。
父については出生から死亡までの連続全戸籍と戸籍の附票(ふひょう)すべてを取得します。
戸籍については、2024年3月から、故人の配偶者又は子などの直系親族に限り、全国の最寄りの市役所で出生まで遡った連続全戸籍を取得できるようになりました。(法務省の戸籍情報連携システム、戸籍の広域交付)
戸籍の附票については、広域交付に未対応のため、対象者の本籍地で取得します。
相続人3名については、戸籍謄本1通と印鑑証明書を3通ずつ取得いただきます。
2,戸籍や印鑑証明書は何通取得すればよいの?
戸籍や印鑑証明書を何通取得すべきかについては、次の通りです。
- 死亡保険金請求用
- 死亡保険金がある場合は、保険会社ごとに、故人の最後の戸籍謄本と住民票の除票(じょひょう)、受取人の戸籍謄本が各1通必要です。
- 死亡診断書や受取人の本人確認資料のコピーも必要です。
- 相続手続用(相続登記・預金・証券)
- 相続手続用の故人の連続全戸籍と相続人の戸籍は1通ずつでOKです。
取得した戸籍は、A4用紙1枚の法定相続情報という相続関係図に代用されるためです。
法定相続情報は司法書士が、遺産の数に応じて多めに20~30通ほど取得し、預金や証券の相続手続で使用します。
- 相続手続用の故人の連続全戸籍と相続人の戸籍は1通ずつでOKです。
相続人の印鑑証明書については、法定相続情報で代用できません。
実印照合のための証明書だからです。
預金や証券が複数の金融機関にある場合は、時短のため、印鑑証明書を3通ずつほど取得いただくと、相続手続を同時並行で進められます。
3,法定相続情報
遺産が2か所以上ある場合には、原則として法定相続情報を取得します。
法定相続情報は、親子2世代の相続なら5~10通ほどになる戸籍の内容確認作業を、法務局の1回で済ませる効率的な証明書です。
法定相続情報がないと、法務局、金融機関、証券会社、税務署等で、同じ戸籍確認作業を何回も繰り返すことになるため、相続手続の期間が長引きます。
法定相続情報を取得することにより、相続手続期間を短縮でき、かつ、故人の出生まで遡った戸籍を何セットも取得するという無駄がなくなります。
4,死亡保険金の請求
死亡保険金の請求は、保険会社に連絡して申請書を取り寄せ、保険証券、故人の死亡診断書・戸籍・住民票の除票、受取人の戸籍、本人確認資料などを同封して申請します。
死亡保険金の請求については、遺産分割協議が不要で、簡単な手続きですぐに振込手続きできること、保険会社ごとに若干の必要書類の違いがあることなどから、専門家に依頼するより、直接ご本人に対応いただくケースがほとんどです。
今回も死亡保険金の請求についてはご本人にご対応いただきました。
5,遺産調査
①不動産
不動産については、固定資産税の明細で確認しつつ、非課税物件・共有物件の漏れがないように、税務課で故人の所有不動産全てが記載された名寄帳などを取得します。
所有不動産の税務証明書は、市区町村ごとに種類・名称・取り扱いが異なりますが、ポイントは、非課税物件・共有物件を含めた故人の全不動産が記載されることと、非課税物件については登記用の仮価格・近傍価格を出してもらうことです。
②預貯金
預貯金については、判明している金融機関にて、念のため全店紹介をしたうえで残高証明書を取得します。
持ち物は、代表相続人の実印押印の委任状、印鑑証明書、法定相続情報、代理人司法書士の実印・印鑑証明書・本人確認資料です。
金融機関ごとの対応状況の傾向は次の通りです。
- メガバンク・ネット銀行→電話・郵送で相続センターとやり取り・郵送
- 地銀・ゆうちょ銀行→支店受付・相続センターから郵送
- 信金・農協→店舗対応で即日発行
③株式、投資信託等の有価証券
証券会社は、法定相続情報と代表相続人の実印の委任状と印鑑証明書、本人確認資料のコピーを同封して、全店紹介・残高証明書を取り寄せます。
当事務所では、次のような証券会社をよく取り扱います。
基本的にすべて電話と郵送でやり取りして残高証明書を取り寄せます。
- 三菱UFJモルガン・スタンレー証券、みずほ証券、SMBC日興証券などの銀行系証券会社
- 野村證券、大和証券などの大手独立系証券会社
- SBI証券、楽天証券、松井証券などのネット系証券会社
④自動車
自動車は車検証で所有者欄を確認し、故人の名義かどうかを確認して、故人の名義であれば遺産として計上します。
⑤未支給年金、高額療養費給付金、後期高齢者医療費還付金等の公金
未支給年金、高額療養費給付金、後期高齢者医療費還付金等の公金がある場合は、死亡届の際に連絡が行き届くので、代表相続人のところに、通知書・申請書・必要書類の案内が郵送されてきます。
通知書により金額を確認し、遺産として計上します。
⑥未払医療費
相続人が立て替えている故人の未払医療費等は、明細を取っておいて、遺産から債務控除して、遺産目録に計上します。
⑦葬儀費用
葬儀費用も債務控除できるので、明細を確保し、遺産目録に計上します。
6,遺産分割証明書
母が全財産を取得し、全債務及び葬儀費用を負担する内容とします。例えば以下の要領です。
○○○○は、次の財産を含む全財産を取得するとともに、全債務及び相続手続費用を負担する。
・○○市○○町○丁目○○番 宅地 ○○○.○○㎡
・同所同番地 家屋番号○○番 居宅 木造○○○2階建
床面積 1階○○.○○㎡ 2階○○.○○㎡
・○○銀行○○支店に対する預金債権、その他の金融資産すべて
・○○信用金庫○○支店に対する預金債権、その他の金融資産すべて
・ゆうちょ銀行 に対する貯金債権、その他の金融資産すべて
・○○証券に預託する有価証券及び預り金全て
・普通乗用車 自動車登録番号:○○○〇 車台番号:○○○〇
・保険者 ○○保険、契約者 被相続人とする火災保険契約の契約者たる地位 保険証券記号番号○○○
円満相続における遺産分割協議書の記載のポイントは、遺産の名義変更に支障がない程度に遺産の内容を特定することです。
預貯金や証券については、金融機関ごと、証券会社ごとに特定し、預貯金債権、その他の金融資産全て、有価証券及び預り金すべて、と記載しておけば足ります。
相続人が遠方ですので、遺産分割証明書として作成し、相続人それぞれに三部ずつ郵送して、各自署名実印押印いただき返送頂きます。
遺産分割証明書9通、相続人の印鑑証明書9通、法定相続情報30通を一式ファイルにして、相続証明書ファイルとします。
相続証明書3通・印鑑証明書3通・法定相続情報1通をセットとして、以下の遺産の名義変更を同時並行で進めます。
7,遺産の名義変更
- 不動産→相続登記
- 不動産を取得するお母様の委任状、相続証明書ファイルを添付して相続登記を申請します。法定相続情報があるので1週間ほどで登記が完了します。
- 預金→相続届出書、解約、相続人口座へ振込
- 信金→地銀→ゆうちょ銀行の優先順位で預貯金を解約します。
信金は窓口で即日完了し、1週間以内にお母様の口座に振り込まれます。
地銀は郵送で申請し、2週間ほどでお母様の口座に振り込まれます。
ゆうちょ銀行は窓口経由でセンターに申請し、3週間ほどでお母様の口座に振り込まれます
- 信金→地銀→ゆうちょ銀行の優先順位で預貯金を解約します。
- 証券→相続届出書、証券口座開設申込書、移管依頼書
- 証券会社については、相続届出書と移管依頼書は代理人で記入できますが、証券口座開設申込書は、年収・金融資産額・マイナンバー・パスワードなどの秘匿性の高い個人情報を記入することとなるため、お母様ご本人にご記入いただきます。
署名押印が完了した相続届出書、証券口座開設申込書、移管依頼書と相続証明書ファイルを同封して、証券会社に郵送します。
1カ月ほどで証券口座が開設され、お父様名義の株式がお母様名義の証券口座に移管され、代理人司法書士のところに完了通知書が届きます。
- 証券会社については、相続届出書と移管依頼書は代理人で記入できますが、証券口座開設申込書は、年収・金融資産額・マイナンバー・パスワードなどの秘匿性の高い個人情報を記入することとなるため、お母様ご本人にご記入いただきます。
- 自動車→専用の遺産分割協議書を陸運局に提出
- 自動車については、専用の簡易な遺産分割協議書があるので、相続人各自に署名実印押印いただき、管轄陸運局に提出いただきます。
- 未支給年金、高額療養費給付金、後期高齢者医療費還付金等の公金
- 代表相続人のところに届いている申請書をお預かりし、司法書士が記入・振込先口座としてお母様の口座を記入し、委任状と、相続証明書のコピーを同封して郵送します。
数週間ほどで振込が完了します。
- 代表相続人のところに届いている申請書をお預かりし、司法書士が記入・振込先口座としてお母様の口座を記入し、委任状と、相続証明書のコピーを同封して郵送します。
- 火災保険
- 保険会社から申請書を取り寄せ、申請書に署名押印し、相続証明書、相続登記後の建物の登記事項証明書を同封して郵送します。
8,司法書士からの納品・御請求
以上で、遺産承継業務の完了です。納品物は次の通りです。
- 不動産登記権利情報ファイル→保管頂く資料です
- 相続証明書ファイル→保管いただく資料です
- 明細一式(金融機関の残高証明書・振込伝票、証券会社の残高証明書、相続届・移管依頼書のコピー、葬儀費用明細、医療費明細など)
税理士へ引継ぎ、相続税申告
税理士とは、初回面談時にタイミングで、税理士の情報と税理士費用の計算額をお伝えし、情報共有させて頂く旨の了解を得ておきます。
そのうえで、法定相続情報、残高証明書、葬儀費用・医療費等の明細、遺産分割証明書、印鑑証明書を税理士と情報共有しておきます。
相続手続完了のタイミングで、税理士と初回面談を設定し、税理士に引き継ぎます。
今回は、母が全財産を取得することで確定したため、途中経過における税理士面談は省略させて頂きました。
一方で、円満相続で、相続税額を踏まえたうえでの代償金額の設定などをされたい場合は、遺産分割前の段階で税理士と初回面談させて頂き、代償金額を調整させて頂くこととなります。
概算費用(遺産額6000万円・不動産1500万円/不動産2物件)
項目 | 報酬 | 実費 |
---|---|---|
事前登記情報×2 | 662 | |
不足戸籍代行取得×1 | 2,500 | 300 |
法定相続情報 | 10,000 | |
遺産分割証明書 | 65,000 | |
預金解約×3 | 117,000 | |
証券移管サポート×1 | 45,000 | |
相続登記 | 50,000 | 52,000 |
事後登記事項証明書×2 | 1,000 | |
小計 | 289,500 | 53,962 |
消費税 | 28,950 | |
合計請求額 | 372,412 |
まとめ
今回のポイントは、次の2点でした。
当事務所は、
①円満相続については効率よい手続
②疎遠・複雑な相続については出来る限りの対処療法
③資産の凍結を防ぎたい・相続トラブルを予防したいご家族には家族信託・遺言・生前贈与などの生前対策
ご提案・ご提供することにより、皆様の安心・円満な相続と有効な資産の利活用にお役立ちすることを使命としております。
ご相談・ご依頼を心よりお待ち申し上げております。