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【今注目の生前対策】家族信託で叶う!アパート経営を引退 長男に後を任せたい

【今注目の生前対策】 家族信託で叶う!アパート経営を引退 長男に後を任せたい 家族信託

〈2024 年解決事例〉
(※プライバシーへの配慮から編集を施しております)

相談内容…老後を見据えて早めに世代交代をしたい!

70代の男性です。
70代に突入してからというもの、健康面や認知能力に不安を感じるようになりました。
妻も健在ですが、わたしと同じように物忘れが多くなってきております。

現在アパートを2棟(1 億円)所有しておりますが、アパート経営がおぼつかなくなってきました。

アパートの賃貸管理は管理会社へ、毎年の確定申告は税理士に任せているのですが、入退去に伴う手続き、大規模修繕、借り換え、将来的な売却の可能性など、わたし自身が契約にかかわる重要な手続きがあり、自身では対応が難しく感じるようになりました。

また、アパートローンが5000万円ほど残っていることが不安要素でもあります。

そこで同居している長男に家族信託でアパートを受け継がせ、管理運用を任せたいと考えています。
よろしくお願い致します

家族は妻と長男(同居)の他に、近隣に住んでいる既婚の長女がいます。

相談者(男性・70代)の推定相続人関係図 妻、長男、長女がいる

早めの生前対策、すばらしいです。
まずは家族信託とは具体的にどんな制度なのか解説していきます!

家族信託(民事信託)ってどんな制度?

家族信託(民事信託)とは、家族に財産を信託して管理運用してもらう法的手続です。
「信託」とは、漢字の通り「信用して委託すること」。
生前から家族に自分の財産を任せ、代わりに運用してもらうことができます。

「あげる」わけではなく、「貸す」に近いので、完全に受け渡してしまう「贈与」とは異なるのです。

家族信託の仕組み

【家族信託用語】

  • 委託者・受益者
    • 財産を託す人
  • 受託者
    • 財産を託される人
  • 信託財産
    • 託す財産
  • 信託財産責任負担責務
    • 託された財産(不動産など)に関連するローンなどの負債
  • 第2次受益者
    • 最初の受益者が亡くなった後に信託財産の受益権を引き継いだ人
  • 第3次受益者
    • 第2次受益者が亡くなった後に更に信託財産の受益権を引き継いだ人

家族信託(民事信託)の活用場面 

家族信託の主な活用場面は、高齢な親の財産管理、相続(生前)対策、障がい者の財産管理、事業承継等の4つです。 

  1. 高齢者の財産管理→成年後見より柔軟 
  2. 相続(生前)対策→遺言代用信託。遺言と同様の効果 
  3. 障がい者福祉 
  4. 事業承継(自社株信託) 

現在多く活用されているのはA,Bで、終活としての家族信託です。 
家族信託により、高齢な家族の財産管理と遺言の代用となる相続対策(生前対策)をすることが出来ます。 

今回はこの終活として家族信託を活用した事例となります。                  

家族信託の仕組みは複雑で関係性が分かりづらいですが、今回の事案を会社になぞらえて考えてみます。

  • 委託者兼受益者の父→会長兼大株主 
  • 受託者の長男→社長兼連帯保証人 
  • アパート、金銭などの信託財産→会社の財産 
  • アパートローンなどの信託財産責任負担債務→会社の債務 

「社長である父が引退して会長職になり、新社長に就任した長男が経営を任され会社の財産と債務を管理する」という置き換えて考えると理解しやすくなります!

以上を踏まえて、本件の場合どういった関係性になるのか具体的に図で見てみましょう。

本件の場合 委託者の父は確定申告 受託者の長男はローン返済などを担う

相談者様は委託者・受益者として信託財産としてアパートの所有権(=管理・運用権)などを受託者の長男に預け、その経営やローンの返済を長男が担うこととなります。

相談者様が亡くなった場合、受益権は妻と長男が2次受益者として引き継ぎ、引き続き長男が受託者としてアパート経営をするという構図です。
(相談者様より先に妻が亡くなった場合は、受益権は長男一人が2次受益者として引き継いだ後、一定期間の経過により信託を終了させます)

家族信託の初回面談から契約成立まで 

初回面談・家族会議 

お問合せ後の初回面談では、お父様と長男様にご出席いただきます。 
お母様と長女様は、ご同席頂くか、お父様とご長男様を通じてご理解いただくように致します。 

必要書類の手配  

家族信託についてご理解いただき次第、必要書類をご準備いただきます。 

アパートの家族信託における必要書類
アパート固定資産税の明細 確定申告書 銀行ローンの明細
相談者出生から現在までの連続した全戸籍、世帯全員の住民票、印鑑証明書、通帳
長男戸籍謄本、印鑑証明書、源泉徴収票
長女戸籍謄本、住民票
管理会社管理契約書、連絡先、賃貸管理明細
税理士連絡先
火災保険保険証券、連絡先

財産目録作成 

今回の家族信託は終活の一環として行うものです。
アパート以外の他財産についても財産目録を作成し、どのように生前対策をしていくか決めていきます。
これにより相続時の見通しが立ち、ご家族も安心です。

対策の種類財産・負債固定資産 税評価額相続税 評価額
(特例適用後)
信託アパート敷地 2000㎡ (貸家建付地)1億円8075万円
アパート(貸家)3000万円2100万円
アパートローン
-5000万円
信託用金銭
500万円
遺言等その他金銭
2000万円
自宅土地 500㎡2000万円944万円
自宅建物700万円700万円
長女土地1500万円1500万円
死亡保険金

1500万円
保険金 非課税枠

-1500万円
財産総額

1億819万円
基礎控除

-4800万円
相続時の課税財産総額

6019万円

 (金額は概算)

信託契約書(案)作成 

ご家族のご了解を得られ、財産目録を作成した後は、信託契約書の作成です。

【信託の目的】

  • 委託者の財産管理の負担を軽減
  • 受益者の経済的安定と充実した福祉を確保するための継続的な給付

【当事者】

  • 委託者兼受益者は父
  • 受託者は長男、予備的な後継受託者として長女
  • 2次受益者は、場合分けにより「妻と長男」又は「長男のみ」
  • 2次受益者の万一に備えた予備的受益者の指定
  • 残余財産受益者(信託終了時に余った財産を受け取る人)は長男

【信託財産】

  • アパート
  • 金銭500万円(預金債権ではなく金銭とする)

【信託財産責 任負担債務】

  • アパートローン、敷金返還債務
  • アパートローンについては信託契約書に信託財産責任負担債務として明記し、銀行と取り交わす免責的債務引受契約と連動させる

【特定委託者】

  • 受託者の信託変更権限を制限することにより、受託者が特定委託者と認定されることを回避する

【信託の終了】

  • 父母双方に相続発生後の一定期間経過により信託を終了させ、2次または3次受益者たる長男(又は長男の子)に信託財産を帰属させる

終活としての家族信託の基本は、父のために長男が財産を管理運用し、信託財産を家族に承継・帰属させるというシンプルな構造です。

しかし、将来的な相続の順序は予測できないため、想定外の事態とならないように、「場合分け」や「予備的」な受益者等を記載することになるため、契約全体としては少々複雑になります。

そうならないことがもちろんベストですが、「もし、相談者様より先に奥様やご長男が他界したら…?」など、「もしも」のケースに備えるために、複雑な契約が必要です


また、万一長男が「特定委託者」と認定されて、予定していない課税がされることのないように、受託者の信託変更権限を制限しておくことも重要です。 

✕長男=特定委託者→受託者の信託変更権限を制限

管理会社への事前連絡 

相談者様は管理会社とアパート管理解約を締結し、賃貸管理等全般を任せています。 
家族信託を締結すると、所有者が受託者である長男に変更され、管理契約の主体も相談者様から長男に変更されます。 

司法書士から管理会社に家族信託をする旨をお伝えし、管理契約の巻きなおしが必要であることをご説明し、ご対応いただきます。 

税理士への事前連絡 

ご相談者様はアパート経営の税務処理を懇意の税理士にお願いされていました。

家族信託の税務処理は税理士が不慣れなケースも多いため、士業同士の連携を行いました。

【税理士への連絡事項】

  • 自益信託(委託者と受益者が同一)のため、信託契約時の課税は生じない
  • 毎年、信託の計算書の提出(翌年1/1~1/31)が必要である
  • 毎年の確定申告(翌年2/15~3/15)は今まで通り相談者様の名義で行う

銀行での手続き

契約内容が確定した段階で、銀行に正式にアパートローン借り換えの申し込みをします。 

相談者様名義で借り換え→信託契約→長男名義で信託口口座開設→免責的債務引受


借り換えの申し込みの際には、債務引受人となる受託者である長男の融資審査のため、源泉徴収票が必要となります。

その後、家族信託契約前に信託口口座開設の申し込みを済ませ、司法書士が銀行に信託契約書(案)を提出し、事前審査を受けます。

アパートローン借り換えを申し込む銀行と信託口口座を開設する銀行は同じ銀行です。

借換実行(根抵当権設定・抹消登記)

アパートローンの借り換えを実行します。
信託口口座を開設する銀行で借換し、根抵当権設定登記をし、後日、いままでの金融機関の根抵当権抹消登記をします。

公証役場と打ち合わせ、信託契約公正証書作成

司法書士が、公証役場に信託契約書(案)を提出。
公正証書の準備と公証人手数料の見積もりをして頂きます。

その後公正証書を作成します。
アパートローンの債権者が、信託口口座開設の銀行に変更されたことにより、正式な信託契約が可能となります。

信託口口座開設

受託者である長男が、信託契約公正証書を持参して、信託口口座を開設します。
口座開設まで1週間ほど要します。
口座開設後、契約書に記載された信託金銭を預け入れます。

アパートの名義変更(所有権移転・信託登記)

司法書士が、アパートの名義をお父様から受託者である長男様に変更し、信託登記をします。

アパートローンの債務引受

銀行と免責的債務引受契約を取り交わし、アパートローンの債務者を相談者様から受託者である長男様に変更します。

単なる免責的債務引受ではなく、信託契約上の信託財産責任負担債務としての免責的債務引受である旨が明確となるように次の3点を意識します。

  • 契約上の相談者様の肩書 旧債務者兼委託者
  • 契約上の長男の肩書 債務引受人兼受託者
  • 免責的に債務を引き受け「信託財産責任負担債務とする」旨を明記

受託者による信託事務遂行

信託契約後は、受託者である長男による信託事務が始まります。

基本的には信託口口座における口座引落や振込をメインとしつつ、現金引き出しが必要な場合は、必要な金額のみ引出し、使途をノートやエクセルで管理して、レシート、領収書を残しておきます。

信託の目的は「委託者の財産管理の負担を軽減」「受益者の経済的安定と充実した福祉を確保するための継続的な給付」であるため、目的外の支出がないように注意が必要。

家族信託=受益者(本件の場合は相談者)のために財産を管理・運用

信託契約締結後の諸手続き

信託契約後に管理会社へ報告。契約書のコピーを管理会社に提出し、管理契約を巻きなおします。
また、アパートの名義を受託者へ変更したことに伴い、火災保険の契約者も受託者名義へ変更します。

税務手続

  • 信託契約後、税理士へ報告。契約書のコピーを税理士に提出
  • 毎年1/1~1/31に信託の計算書の作成提出を税理士へ依頼、税務署へ信託の計算書を提出
  • 毎年2/15~3/15までの間に確定申告(名義は今までと同じく相談者)

その他財産の生前対策

今回は、アパートの家族信託のを行いましたが、相談者様にはこの他にもご自宅、長女宅の敷地、預貯金などの財産があります。

これらの財産についても生前対策が必要です。
遺言公正証書を作成をご提案し、継続的にフォローアップとなりました。

概算費用

項目報酬実費
ローン借換の根抵当権設定登記40,000200,000
ローン借換の根抵当権抹消登記20,0006,000
家族信託設計・契約書作成900,000
所有権移転・信託登記55,000202,000
根抵当権債務者変更登記30,0006,000
登記情報
3,310
登記事項証明書 借換後
3,000
登記事項証明書 信託後
3,000
登記事項証明書 債務引受後
3,000



小計1,045,000426,310
消費税104,500
合計請求額1,575,810
※別途公証人手数料5万円 ※別途銀行の信託口開設手数料10万円 ※贈与税の課税なし ※不動産取得税の課税なし

まとめ・補足 

今回は、借り換えに伴う借換先銀行での家族信託のため、借換先の銀行にとってもインセンティブが働きアパートローンの債務引受契約も比較的スムースに進行しました。 

今回のケースとは別に、借り換えが不要となるケースでは、銀行もアパートの信託、ローンの信託財産責任負担債務化、受託者への債務引受に対して、腰が重くなる傾向が想定されます。 

とはいえ、ご家族にとってアパートなどの収益物件の家族信託が必要な場合は、既存の銀行で対応できるのか、借り換えが必要なのか、金融機関の対応に応じて、柔軟かつ迅速に手続を進める必要があります。 

当事務所は、
①円満相続については効率よい手続
②疎遠・複雑な相続については出来る限りの対処療法
③資産の凍結を防ぎたい・相続トラブルを予防したいご家族には家族信託・遺言・生前贈与などの生前対策
ご提案・ご提供することにより、皆様の安心・円満な相続と有効な資産の利活用にお役立ちすることを使命としております。

ご相談・ご依頼を心よりお待ち申し上げております。