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【50年前の遺産分割漏れ】「その他条項」の欠落により世代交代した相続人の実印を集めた事例

【50年前の遺産分割漏れ】「その他条項」の欠落により世代交代した相続人の実印を集めた事例 相続

〈2018 年解決事例〉
(※プライバシーへの配慮から編集を施しております)

相談内容…農業用地の開発ができない?土地の名義変更ができていなかった

私は専業農家です。農業用地の開発を進めようとしたところ、土地は共有になっており、私一家の持ち分は祖父名義のままになっていました。もう一方の共有者は、地域の別の方の先々代名義でした。
このままでは農業用地の開発を進めることができません。

昭和43年に作成された祖父の遺産分割協議書を確認すると、今回の農地の記載がなく、遺産分割協議書の末尾に「その他一切の財産は○○が取得する」という、「その他条項」の記載もありません。

非課税・共有名義という二つの要因が重なり、遺産のリストから漏れたようです。
非課税とはいえ、相談者様にとっては家業の発展に不可欠な土地で、何とかして名義変更し、農業用地として開発したいです。

祖父が亡くなった当時の相続人は叔母、父、叔父の3名でしたが50年の間に世代交代し、現在の相続人は私を含め7名です。

7名の相続人がいる相続関係図

50年の間に、一部の親族と繊細な問題が発生し疎遠となり、スムーズに

印鑑をもらえるか不安です。

50年前の遺産分割協議書で手続できないでしょうか?

また、もう一方の共有者の名義はどうやって処理したらよいでしょうか?

実際の解決方法…再度の遺産分割協議が必要

1,記載漏れの遺産について再度の分割協議

結論から言うと、50年前の遺産分割協議書でそのまま手続きすることはできません。

昭和43年に作成された祖父の遺産分割協議書には今回の農地の記載がなく、記載漏れの状態でした。
遺産分割協議書に、「その他一切の財産は○○が取得する」という、「その他条項」がない限り、記載漏れがあった場合は改めての遺産分割協議が必要です。

当事務所で遺産分割協議書を作成する場合、基本的には「その他条項」を入れます。
そうすることで、万が一漏れた財産が後から判明した場合でも、他の相続人と再度協議することなくスムーズに財産を取得できるからです。

もし、過去の遺産分割協議書に「その他条項」が入っていれば、このようなことは起きませんでした。
非課税の土地の記載漏れのために、疎遠な相続人の同意を後日取り寄せるリスクを回避するためにも、基本的には、「その他条項」が必要といえるでしょう。

2,50年前の相続資料をお預かり

50年前の相続資料をお預かりし、現在も使用できる戸籍はそのまま活用します。

3,名寄帳(なよせちょう)を取得

市役所で名寄帳を取得します。

名寄帳とは市区町村ごとに発行される証明書で、所有者が所有する土地や家屋を一覧にまとめたものです。所有している固定資産を全て把握することができます。


令和6年以降、登記で使用する役所の固定資産証明の発行事務負担の軽減から、固定資産税の課税明細の活用が推奨されています。

しかし、固定資産税の課税明細は、相続手続の資料としては、致命的な欠陥が2つあります。

  • 非課税物件は記載されない
  • 共有物件は代表者のところにしか届かない

非課税物件・共有物件も含めて固定資産税の通知がされれば、固定資産税の明細を信用して相続登記をすることが可能となりますが、現状はそういう扱いにはなっていないので、相続手続においては、名寄帳又は名寄帳に相当する資料を取り寄せるのが無難です。

4,相続人の戸籍を取得し、疎遠な相続人に協力依頼書を送付

まず、50年前から世代交代した相続人の現在戸籍を集めます。
疎遠な相続人宛に、事情を説明した手紙を出して協力を仰ぎ、回答書を返送していただきます。

関係が疎遠とはいえ、財産的価値のある土地ではないので、手紙を完全無視されない限りは、何とかなります。
無視されないような手紙の書き方がポイントとなります。

手紙を受け取る立場に立って、一目見て重要性を理解でき、配慮ある文章を心がけています

昨今は詐欺の事件も多いため、突然の手紙に不審がり、お電話を頂いた相続人もいらっしゃいました。
50年も前に終わっているはずの相続手続について、実印の押印と印鑑証明書を要求されるのですから無理からぬことです。
代書人として、中立的な立場から口頭でもご説明差し上げ、ご納得いただいたうえで回答書をご返送頂けました。

6,相続人に遺産分割証明書を送付

相続人全員からの回答が得られ次第、相続人に遺産分割証明書を送付し、実印を押印いただき印鑑証明書を同封してご返送頂きます。

7,遺産分割証明書が返送され次第、相続登記

相続人全員からの遺産分割証明書が返送され次第、相続登記をします。
これで、相談者様側の相続手続きは完了です。

もう一方の共有者、相続人28名の名義集約と持分放棄

実は、もう一方の共有者にも相続が発生しており、こちらは28名の相続人でした。
幸い、親族間の連絡が行き届く関係にあり、28名全員から 3,000 円ずつの手間賃で実印押印と印鑑証明書提出のご協力を頂けました。

28名分の遺産分割証明書により代表者1名に相続登記したうえで持分放棄を頂き、こちらも相談者様の単独名義となりました。

共有者が持分放棄すると、他の共有者に持分が帰属します。

税務上は贈与扱いなので、土地の倍率評価を確認しておきます。

概算費用(遺産額3万円/1物件)

項目報酬実費
事前登記情報
331
戸籍代行取得108通270,00081,000
相続関係説明図×220,000
遺産分割証明書×210,000
相続人回答サポート33名165,000
調整値引き-65,000
捺印サポート 33名165,000
調整値引き-65,000
相続登記①36,0000
相続登記②36,0000
持分放棄登記36,0001,000
事後登記情報
331
小計608,00082,662
消費税60,800
合計請求額¥751,462

まとめ

今回の最大のポイントは遺産分割協議書の「その他条項」です。

相続登記のご依頼を受けると、今回のような先々代名義の相続登記漏れと思われるような非課税の土地を散見します。

相続登記漏れの土地が発見されたときでも、遺産分割協議書に「その他条項」の記載があれば、相続人の印鑑をもらいなおす事態を避けることができます。

遺産分割協議書作成の主な目的は、次の3点です。

  • 主だった遺産の相続手続のため法務局、銀行、証券会社などに提出する
  • 相続税申告案件における相続税がかかる財産の明細書の根拠資料とする
  • 相続人間の合意の証拠・紛争解決

円満な相続においては、①②の観点からは、「その他条項」で細かな財産・債務等の帰属を取りまとめても問題ありません。

相続同士の関係が険悪な相続の場合、相手への不信感から「隠し財産があるかもしれない」といった疑念が湧いている状態のときは、③の観点から「その他条項」が敬遠される傾向にあります。

とはいえ、地元の非課税・共有物件に限らず、他県の山などは、固定資産税の明細がなく、市町村単位で取り寄せる名寄帳の候補からも漏れる可能性があり、発見が容易ではありません。

非課税の土地の記載漏れのために、疎遠な相続人の同意を後日取り寄せるリスクを回避するためにも、基本的には、「その他条項」が必要といえるでしょう。

「その他条項」に多額の遺産が含まれていた場合には、他の相続人が相対的にみて損をすることとなります。しかし、そのような多額の遺産が後日発見されるケースはまれであり、その僅かな可能性を消したいというのであれば、相続人自ら遺産調査をすべきでしょう。

むしろ些細な非課税の土地の記載漏れのために、再度相続人全員の印鑑をもらう負担を深刻に考えるべきです。
相続においても、遺産を漏れなく把握する完璧主義に固執することなく、その他条項を許容する気構えが必要ではないでしょうか。

共有者が持分放棄すると、他の共有者に持分が帰属します。税務上は贈与扱いなので、土地の倍率評価を確認しておきます。念のため「その他条項」の記載が推奨されない、完璧主義が要求されるケースを2つ掲げておきます。

  • 裁判所が関与する遺産分割
  • 弁護士が介入する遺産分割

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